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第37話 SIDE江角慎吾

 翔に何があったんだ……突然バイト先に来て酔っぱらい、俺の家に泊めてと泣きそうな顔で言ったかと思えば放っておいてと言う。 うずくまったまま動かない翔を見ながらどうしたもんかと首を捻る。 LINEでも俺の家に行ってもいいかと聞いていたし、五十嵐さんと何かあったんだろうけど、怪我までしているし、一体なんなんだ。 とにかくこのまま翔にここで寝られては困る。 「ほら立て」 腕を引っ張る俺に首を横に振りながら放っておいてと繰り返す。 本当に翔は酔うと駄々をこねる子供みたいで面倒臭い。 子供の頃に我儘を言ったり甘えたりできなかったせいなのか酔うとそれが出てしまうようで世話が焼ける。 「わかったから、立てよ帰るぞ」 「嫌……だって!」 もう一度強く腕を引っ張る俺の手を振り解いて泣き出す翔に通行人が何事かという目を向けてくる。 「わかったわかった、俺が悪かったから」 嫌だと泣く翔を引き()るように歩き出し、急いでその場から離れた。 「慎吾ぉ……歩けない……」 歩き出してすぐ泣きながらしゃがみ込む翔を仕方なく背負ってやる。 結局こうなるんだよな……酒が入るとすぐ眠くなってしまう翔を背負うのはいつものことだけど、今日の翔はいつもより感情的すぎる。 「慎吾も俺をおいていくの?」 「おいてくも何もお前を背負ってんのは俺だよ」 俺の肩先で鼻を(すす)り弱々しい声で呟く翔に答えるとそっかと安心したように笑った。  家に着くと翔をベッドに座らせ俺は大きく身体を伸ばした。俺より軽いとはいえ力の抜けた翔を背負い家まで歩くとさすがにきつい。 「水、飲む?」 「一人になりたくない」 重そうな瞼でゆっくり瞬きをする翔に声をかけると首を横に振り俺の服を掴んで泣きそうな顔をする。 翔の言葉に翔が20歳(はたち)になってすぐの時にもこんな風になったことがあったなと記憶が蘇る。 あの時は確か家の事が原因だったか……今回も家の事が原因なのか。 「五十嵐さんに迎えにきてもらうか?」 「嫌だ!やめてお願い」 不安でどうしようもない顔をしてスマホを持つ俺の手を掴んだ翔の手は震えていて、原因は五十嵐さんかと確信する。 「はぁ……わかったよ」 「溜息ついた!慎吾も迷惑だって思ってんの?なぁ!」 俺の腕を揺さぶりながら喚く翔の剣幕に戸惑いを隠せない。 本当にどうしたんだこいつ。 普段子供っぽいと言われるのを嫌がる翔は絶対こんな事しない。 今まで酔っぱらってもすぐ寝てしまうだけで、こんな風に絡む翔は初めてだ。 「なぁって!俺なんかいないほうがいいって思ってんだろ!」 「いい加減にしろ」 しつこく詰め寄る翔に苛立ち、強い口調で言ってからしまったと思った時にはもう遅かった。一瞬ぴたりと動きを止めた後、声を上げて翔が泣き出した。 こんな状態の翔に強く言うとこうなるのはわかっていたはずなのに。 泣きながら文句を言う翔に無難な相槌を打ちながら泣きつかれて眠るのを待つしか術がなかった。

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