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第39話 SIDE江角慎吾

「翔、起きろ、翔」 五十嵐さんが眠る翔に声をかけながら肩を揺するとまだ夢の中にいるようなぼんやりした顔で気怠そうに起き上がった。 「慎吾ぉ……佑真さんが見える……」 「だろうな」 重そうな瞼を瞬かせながら呟く翔に返事をしても俺の声が聞こえていないのか反応はなかった。 「やっぱり佑真さんは笑ってる方がいい」 口元に笑みを浮かべ五十嵐さんの首に手を回し抱きつく翔から視線を外し小さく溜息をついた。 俺は何を見せられているんだ。翔、頼むから早く酔いを醒ましてそういう事は二人っきりでやってくれ。 「江角……酔うといつもこんな感じ?」 「さすがにそこまではないですよ」 抱きつく翔を受け止めながら振り向き疑うような視線を俺に向けてくる。 「本当かよ」 冷たい声で呟いた五十嵐さんは視線を翔に戻した。 何を疑っているんだこの人は……確かに翔と付き合いは長いけど、俺は翔をそんな目で見た事もないし翔だってそうだ。 「さすがに翔だっていくら酔っているからって誰にでもそういうことはしないでしょ」 「いや、こいつには前科がある」 翔の背中をあやすように優しく撫でながら溜息をつく五十嵐さんに驚きを隠せなかった。 何やってるんだ翔……もう本当に酒はやめてくれ。飲んでもいいけど俺の知らない所で頼む。 「佑真さんまで溜息ついた!」 勢いよく顔を上げ騒ぎ出す翔に、泣きつかれて眠るまで文句を言われ続けた事を思い出して眉をひそめた。 「翔が起きてくれなかったからな」 優しく微笑んだ五十嵐さんの手が翔の頬にそっと触れる。 「佑真さん冷たい顔するから嫌だ」 「悪かった。もうしない」 泣き出しそうな翔の頬を撫でながら諭すように優しくゆっくりと五十嵐さんが言葉を紡いでいく。 だから俺は何を見せられているんだ……。 「慎吾ぉ……佑真さんが優しい」 翔が視線を俺に移して訴えるような目を向けてくる。 今のお前に俺の存在は一応あったのな、だけどいきなり話を振るんじゃねぇよ。 「よかったな、五十嵐さんと帰れよ」 「慎吾……またそうやって俺の事、邪魔にして……」 五十嵐さんにしがみついたままの翔の目から涙が零れ、慎吾が冷たい、ひどいと喚き出す。 お前どんな状況でそれ言ってんのかわかってんのか……動画でも撮って今後の教訓にしてもらいたいもんだな。状況などわかっていない翔の文句を聞き流しながらそんなことが頭をよぎる。 「もう泣くな翔、迎えに来たから一緒に帰ろう」 翔の両頬に手を添え額を突き合わせる五十嵐さんの静かな声に翔の涙がぴたりと止まった。 おぉすごいな、俺が何を言っても泣き疲れて眠るまで喚き続けた翔を一瞬で黙らせている。 頬杖を突いてその光景を眺め素直に感心しながら、そのままおとなしく帰ってくれと願っていた。 俺の願いが通じたのか、しがみつく翔をそのまま抱き上げた五十嵐さんが迷惑かけたなと言って帰って行った。 「疲れた……」 ベッドに倒れ込み、この数時間の疲れを吐き出すように息を吐いた。 話でも相談でも何でも聞くから今度からは酔っていない時にしてくれ、切実な思いを心に浮かべながら睡魔に身を委ねた。

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