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第43話
「はい、乾杯~!」
騒めく店内に負けないくらい大きな声で秋穂さんがジョッキを持ち上げもう何度目かの乾杯をする。
「あー俺そろそろ帰らないと……」
「えー!まだ飲むよー!」
スマホの時間を確認していた俺の手からスマホを奪って秋穂さんが不満そうに口を尖らせた。
「ちょ……返して下さいって、知り合いが迎えにくるんです」
身を乗り出してスマホを取り返そうとする俺に誰?とスマホを遠ざけながら秋穂さんが興味津々で聞いてくる。
こういう時、佑真さんの事を何て説明すればいいのかわからなくて困ってしまう。
飲み会に行くなら迎えに行くからと言い出した佑真さんを断りたかったけど酔ってさんざん迷惑をかけた俺に拒否権はなかった。
佑真さんが迎えに来てくれるのは嬉しいんだけど……永徳にはなるべく会わせたくないと思ってしまう俺の心は狭いとわかっていても嫌なものは嫌なんだよ。
「秋穂さんもタクシー呼びますから帰りますよ」
秋穂さんの手からスマホを取り返した永徳が俺に渡しながら困ったように笑った。
「お手洗い行ってきま~す」
「はぁ……」
まだ飲み足りなさそうな顔でトイレへ向かう秋穂さんの背中を見送りながら溜息を漏らした。
「翔、あの、さ……まだ先の話だけど……来月の18日、家に来てくれないかな」
「……何かあるのか?」
永徳の寂しそうな沈んだ顔にその日は無理だと言えずに聞き返した。
「弟の命日なんだ。翔にいてほしくて……だめかな」
消え入りそうな永徳の声が放っておけなくて、その日は無理だと言えなくなった。
「18日な、いいよ」
「ありがとう」
頷く俺に永徳は嬉しそうに笑った。
「帰りますよ~!」
トイレから戻りふらつきながら騒ぐ秋穂さんを支えながら店を出る永徳の後ろで静かに溜息をついた。
佑真さんに謝らないと……。
「翔」
俺達に気付いた佑真さんが店の横にある駐車場から声をかけた。
「わぁ~すごいイケメン!翔君の知り合い?」
「えぇ」
俺と佑真さんを交互に見る秋穂さんに苦笑しながら頷いた。
佑真さんを見た時の反応がみんな同じなんだよなぁ。
「初めまして五十嵐です」
「長谷川秋穂で~す。季節の秋に稲穂の穂で秋穂で~す」
佑真さんの笑顔を見つめながら秋穂さんが嬉しそうに自己紹介をする光景に秋穂さんもイケメンには弱いのかとふっと笑ってしまう。
「綺麗な名前だな」
「じゃあ彼女にしてくださ~い」
「俺に恋人がいなければそうしたい所だったけどな。ごめんな」
とんでもないことを言い出した秋穂さんをさらっとかわして優しく微笑む佑真さんに残念ですと言う秋穂さんの声が聞こえた。
「す、すごいね」
「そうだな」
やりとりを聞いて呟いた永徳に相槌を打ちながら恋人って俺の事だよなと顔が熱くなった。
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