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第44話
秋穂さんをタクシーに乗せ、電車で帰る永徳を見送ってから佑真さんの車に乗り込んだ。
「あの、佑真さん……」
佑真さんの横顔を見つめながら言わなければいけない事が言い出しにくくて言葉に詰まってしまう。
「どうした?」
「あー……いえ、迎えに来てくれてありがとうございます」
「俺としてはどこでも送迎したいくらいだけどな?」
「何言ってるんですか……」
悪戯っぽく笑う佑真さんの冗談にも嬉しくなってしまうから困る。
結局言えないまま家に着いてしまった。
日中は残暑が厳しくまだ暑いのに夜は少し肌寒く感じてホットコーヒーでも飲もうと電気ケトルに水を注ぎながら俺の誕生日を一緒に過ごしたいと言ってくれた佑真さんにどう話せばいいのかわからず溜息ばかりが出てしまう。
「翔、あふれてる」
「あ、すいません」
いつのまにか背後に来ていた佑真さんが水を止め優しく俺を抱きしめた。
「言いたいことがあるなら言えよ」
透き通るような佑真さんの声に何でもないと言えればどんなにいいか。
俺だって誕生日を佑真さんと過ごしたい。だけど永徳を放っておくこともできない。
「来月の18日なんですけど……永徳と会うことになって……」
「18日ってお前、その日は――」
「約束していたのにごめんなさい!」
俺の腰に手を回し抱きしめる佑真さんの腕をぎゅっと掴むと佑真さんの溜息が小さく聞こえた。
「理由は?」
「え……?」
「お前が理由もなく約束を破るわけないからな」
佑真さんに促されるままソファに座りゆっくりと息を吐いた。
「その日が永徳の弟の命日らしくて、それで一緒にいてほしいって言われて」
「どうして?」
隣に座る佑真さんの声が少し不機嫌そうにな気がして嫌な思いはさせたくないのになと気持ちが重くなる。
「永徳は弟が死んだのは自分のせいだって思っていて……一人でいるのが辛いんだと思うんです」
「家族がいるだろ」
佑真さんの声が冷たい。
だけど……。
「俺には永徳の気持ちがわかるから、放っておけなくて……」
「辛いから誰かにそばにいて欲しいだけだろ。甘えてるんだよ、あいつ自身が何とかしなきゃいけないことだろ」
佑真さんの言ってることは理解できる、できるけど何でそんなどうでもいいみたいに言えるんだ。
「どうしてそんな冷たい言い方するんですか!」
「俺には関係ないからな」
冷たく言い放つ佑真さんの言葉に俺の心が重くなる。
永徳と俺は似ている、似ていると思うからこそ重ねてしまう。
もし佑真さんと先に出会っていたのが永徳だったなら、永徳の事を放っておけないと思い俺の事は関係ないと切り捨てていたのか。
考えるだけで怖くて寂しくて暗い闇に落ちていくような気分になる。
「俺だって佑真さんにそばにいて欲しいと思うし、甘えてますよ」
「お前とあいつは違うだろ」
「何も違わない!俺の事だって放っておけばいいだろ!」
大きく溜息をついて髪をかき上げる佑真さんに苛立つ目を向けた。
出会ったのが先か後かそれだけの違いじゃないか。
俺が辛くて一人じゃいられなかった時いつもそばに佑真さんがいてくれたから今の俺がいる。あの時一人だったら俺自身どうなっていたのかわからない。
今の永徳はあの時の俺と同じだ。
一人じゃどうしようもなくて誰かに助けて欲しいと願っていたあの時の俺と……。
「いい加減にしろ、翔。好きな奴の事を放っておけるわけないだろ」
呆れるように言う佑真さんに俺の言う事なんか何もわかってない気がしてすぅっと気持ちが冷たくなっていく。
「好きですよ永徳の事。だから放っておけない」
「お前それ本気で言っているのか」
いつも暖かい佑真さんの茶色の瞳は拒絶を示し、今まで見た事のない怖い顔に本気で怒っているのだとわかり顔を背けずにはいられなかった。
それでも俺の話を聞こうとしない佑真さんにいつか俺も関係ないと切り捨てられてしまうのかと考えてしまう。
「本気です……」
「お前……!勝手にしろ!」
声を荒げそう言い残すと佑真さんは部屋に入って行った。
怒らせたいわけじゃなかったんだけどな……。
だけどあんな冷たく言わなくたっていいだろ。
おさまりそうもない怒りに慎吾の家に行ってきますと佑真さんの部屋の前で声をかけて返事も聞かずに家を飛び出した。
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