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第45話
9月とはいえ深夜の寒さに半袖のまま飛び出してきた事を後悔しながら慎吾の家へと足早に歩いた。
「慎吾―慎吾―!」
何度もチャイムを押し、ドアを叩きながら慎吾を呼んだ。
「うるさい!近所迷惑だろが」
「さっさと開けないからだろ」
睨む慎吾の横をすり抜けて部屋に入っていく。
「酔ってんのか、お前」
「一滴も飲んでねぇよ」
「通常でそれかよ、迷惑極まりねぇな」
呆れたように冷たく言いながらもホットコーヒーを淹れてくれようとしているあたり慎吾は優しい。
「それで?何があったんだよ」
ホットコーヒーを俺に渡した慎吾は机の上の読みかけの本を軽く片付けた。
「何で何かあったと思うんだよ」
「こんな時間に何もなくて来たら追い返してるぞ」
慎吾の視線の先にある時計をみると午後11時を過ぎている。
「佑真さんがわからずやすぎるんだよ」
「喧嘩でもしたのか」
「喧嘩にもならない……」
低反発のベッドに上半身を預け天井を見上げながらぽつりと呟いた。
そりゃ佑真さんは俺より頭もいいし、知っている事も多いのかもしれないけど、少しくらい俺の気持ちを聞いてくれたっていいじゃないか。
「お前がうまく話せないのは五十嵐さんも知っていると思うけど、話せないのと話さないのは違うぞ」
「話してるよ」
「話してないから喧嘩になってないんだろ」
慎吾の言う事はわかるようでわからない。言いたい事は言ってるつもりなんだけどな。
「なぁ慎吾、友達の事を心配するのって悪い事じゃないよなぁ?」
「ああ、そうだな」
「だけど……佑真さん本気で怒ってた……あんな佑真さん初めて見た」
俺の声は小さくしぼんでいき、湯気を立て揺らめくコーヒーに視線を落とした。
「何を言ったんだよ」
なぜ俺が悪いみたいな前提で話を進めていくんだ慎吾。
確かに俺が言ったことで怒らせたのは間違いないんだけど。
「好きだから放っておけないって」
「は?」
「だから!佑真さんが友達の事なんか放っておけみたいに言うから」
「で、その友達が好きだから放っておけないって?」
頷く俺にそりゃ怒るだろと呆れたように慎吾が呟いた。
「それで――」
「まだ何か言ったのかよ!?」
言いかける俺を遮って慎吾が驚いた声を出した。
「本気かって聞かれたから、本気だって……」
言葉を失う慎吾を見て、思い返すと確かにそれは怒って当然だと自分でも思う。
「お前が悪い」
「わかってるけど!でも佑真さんだってもう少し俺の話聞いてくれたって――っくしゅん!」
「それを五十嵐さんに言えばいいだろ」
くしゃみをした半袖の俺に自分の上着を渡して世話が焼けると面倒臭そうな顔をした。
「あんな怖い顔されたら何も言えなくなるだろ」
「お前……五十嵐さんが怖いのか?」
上着を着ながらむすっとして答える俺に慎吾が考え込み難しい表情を浮かべている。
「あー……そういう怖いじゃなくて、嫌われたのかなとかそういう怖い、な。佑真さんに対して兄さんに感じる怖さは感じた事はない」
俺の怖いがどういう意味なのか気にしていた慎吾がそうかと安心したように笑った。
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