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第50話【R-18】

兄さんは何を言ってるんだ……? 俺が兄さんに抱かれたら佑真さんがどんな顔をするか? ただそれだけのために俺を抱くというのか。 コワイ イヤダ コワイ 「やだ……っ」 起き上がろうとした俺の頭は息ができなくなるほど押さえつけられ、呼吸が浅くなっていく。 だめだ、逃げなきゃ……俺の思いを嘲笑うかのように意識は遠のき力が入らない。 「咥えろ」 前髪を掴み上げられた俺の眼前に昂る兄さん自身が突き付けられる。 「いや……だ」 苦痛に顔を歪める俺の咥内に無理矢理入ってくる兄さんに浅くなった呼吸が行き場を失い、酸素を求め喉ががひくひくと震える。 「いつだってお前はそうやって被害者みたいな顔をして……自分は悪くないとでも思っているのか」 咥内を支配する兄さんに喉を突かれる度に吐き気が込み上げ言い返す事も出来ずただ苦しさに涙が溢れる。 兄さんには俺がそんな風に見えるのか……でもそれがもし兄さんの中にある罪悪感がそう見せているのだとしたらこんな行為お互いを傷つけあうだけだ。 「ひどい顔だな」 俺の咥内から自身を引き抜き冷たく笑う兄さんがほんの少しだけ辛そうに見えるのは俺がそう思いたいだけなんだろうか。 「兄さ……もう……やめて、こんな事……したって……傷つけあうだけじゃないか……」 「俺はあいつが傷つく姿が見たいんだよ。手に入らないものなど何もないと俺から全て奪っていったあいつがどんな顔をするのか想像するだけで愉快じゃないか」 肩で呼吸をしながら必死で紡いだ俺の言葉に兄さんは歪んだ笑みを浮かべていた。 「兄さん……っ!」 「最も、あいつはお前なんかあっさり切り捨ててしまうだろうけどな」 兄さんの言葉が鉛のように重く俺の心に落ちてくる。 兄さんに抱かれていたと知っても佑真さんは変わらず好きだと言ってくれた。でもそれは過去の事だったからで……それが今ならどうなるんだろう。 怖い、怖い。佑真さんに拒絶されると考えるだけで身体が震えて止まらなくなる。 「お願い……許して……」 押し倒し背中を押さえつけている兄さんに俺の震える声は届かない。 「あぁ……懐かしいな」 服を捲り上げ背中の傷をなぞる兄さんの手に恐怖で奥歯がガタガタと音を立て始めた。 「たす……助けて……佑……真さ……」 「なぁ翔、いつから五十嵐と付き合っているんだ?」 確認するように背中をなぞりながら静かに訊ねる兄さんの声は氷のように冷たい。 「いつから二人で俺を嘲笑っていたのかと聞いているんだ!」 「いっ……あああ!!」 何も答えない俺に苛立った兄さんが怒鳴った瞬間、背中に切り裂かれたような痛みを感じて声を上げた。 「お前のせいでネクタイピンがだめになってしまった」 押さえつけられた俺の視界に放り投げられたネクタイピンが赤く染まっているのが見えた。 あの頃は苛立つ度に手近にある物で俺を傷つける兄さんに恐怖しかなかったけど、今はそんな事でしか感情を制御できない兄さんが可哀想だと感じる。 「違うっ……佑真さんは、兄さんにひどい事をしたって……自分を責めていたんだ……」 「どうして俺があいつに哀れまられなければいけない!」 「っ……!」 兄さんの手に力がこもり傷が抉られる痛みで息が詰まる。 俺の声も、佑真さんの想いも兄さんには届かない。 「五十嵐には抱かれたのか?」 「やっ!……やめっ!」 ズボンに手をかけた兄さんから逃げ出そうともがいてみても虚しい抵抗に過ぎなかった。 「答えろ、翔」 「ない……」 有無を言わせぬ兄さんの冷たい声に小さく答えた。 「あの五十嵐が手を出していないとは驚いたが……よほど大事なのか興味がないのか、どっちなんだろうな?」 兄さんは本気で俺を抱くつもりだ。 その恐怖に頭の中の“オレ”がイヤダ タスケテと騒ぎ出し、頭の中で響き渡る声に何も考えられなくなってしまいそうで怖い。 「そん……なにっ……俺が憎い……のかよっ!」 頭の中の声を振り払うように出した声は冷たい空気の中で静かに響いた。 「お前に関心などない。お前はただ俺に都合よくつかわれる道具に過ぎない。だから――」 道具……憎んでいると言われた方がどれだけましだったか。茫然とする俺の後孔に昂った兄さんの先端が押し当てられる。 「ひっ……やめっ!!」 必死で身を捩っても押さえつけられる強さに身体は動かない。 「せいぜい役に立てよ」 「痛っ!!うああああ!!」 何の準備もしていないそこに兄さんが押し入ってくると引き裂かれるような痛みに悲鳴を上げた。 痛みと圧迫感で俺の中に兄さんを感じると優しく微笑む佑真さんが遠ざかっていくようで、ただ涙が止まらなかった。 「ふっ……う……ゆ……まさ……」 「あいつは助けにこないよ、翔」 ヒツヨウト、サレテイナインダカラ 嗚咽を漏らす俺に兄さんの氷のような冷たい声と“オレ”の声が聞こえ俺の視界は暗く閉ざされていった。

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