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第52話

 チャイムを押すと早朝にも関わらずドアはすぐに開いた。 「翔!?」 「慎吾……」 驚く慎吾に迷惑をかけるのはわかっていても今の俺には慎吾しか頼れる人がいないんだ。 「とりあえず入れ」 眉間に皺を寄せる慎吾に小さく頷き、ほんの数時間前に来た慎吾の部屋をひどく懐かしく感じていた。 「お前どこに行っていたんだ?五十嵐さんからお前が来ていないかと連絡があったけど、あれから帰ったんじゃないのか」 「うん……」 怪訝そうに訊ねる慎吾に頷く事しかできない。 俺だって帰るつもりだった……ちゃんと話をして佑真さんとわかりあいたいと思っていたんだ。 「翔?」 「さわるなっ……!」 肩に置かれた慎吾の手を振り払うと背中の傷が痛み、兄さんを思い出して身体が震え出した。 「どうしたんだ……」 「ご、ごめん」 おまさらない震えに呼吸は荒くなり、驚き目を見開く慎吾に小さく呟くのがやっとだった。 「翔……何があったんだ」 震える俺に伸ばしかけた手を止め心配そうに見つめる慎吾の顔が涙で滲んでぼやけてくる。 「兄さんに……会った……」 何も答えない慎吾と俺の間に重い沈黙が流れた。 「……五十嵐さんに連絡するぞ」 「やっ……嫌だっ!」 掠れる声で叫んだ俺にスマホを操作する慎吾の手が止まる。 「もう五十嵐さんに会わないつもりか?」 静かに俺を見つめる慎吾に心を見透かされているようで目を逸らした。 隠しておける事じゃない、だけど知られて拒絶されるくらいなら二度と会えない方がましだ。 「怖いんだ……佑真さんに会うのが怖い」 「お前の気持ちはわかる……わかるけど、俺じゃだめなんだ……俺じゃお前を助けてやれない……ごめんな翔」 そう言う慎吾の表情は辛そうで、そんな顔をさせてしまった自分を責めずにはいられなくなる。 「ごめん慎吾……俺、迷惑ばかり、かけて……」 「迷惑なんて思っていない」 震える声に言葉が途切れてしまう俺に慎吾の優しい声が聞こえた。  このまま慎吾のそばにいれば兄さんの事を忘れられるのかもしれない。佑真さんに出逢う前のように。 佑真さんと出逢って初めて人を好きになる喜びや幸せを知った。それをなかったとになんかできない。したくない。 佑真さんに軽蔑され、拒絶されたとしても兄さんから逃げることも出来ず抱かれてしまった俺はそれを受け入れるしかない 許されるなんて思っていない、だけど耐え難い現実と向き合う事が怖くて逃げだしたくなる気持ちを抑えながらスマホを操作する慎吾を眺めていた。

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