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第55話
佑真さんのそばにいられなくなるかもしれないと怯え怖がっていた俺の数時間は何だったんだ。
宣言通り俺の怖さも不安も消してくれた佑真さんは凄い……とは何かちょっと違う気がするけど張りつめた糸が緩んでいく気がした。
「それに……俺のせいだろう……ごめんな」
「佑真さんのせいじゃないです。だからそんな辛そうな顔しないで下さい」
佑真さんの憂いを帯びた瞳に心が締め付けられるようだった。
確かに兄さんは俺を使って佑真さんを傷つけようとしたけど、それは兄さんが勝手に佑真さんに劣等感を持っているだけで佑真さんは何も悪くない。
「もちろん水沢に対しては殺しても飽き足りないくらい腹は立っているけどな」
そう言って微笑む佑真さんの目は1ミリも笑っていなかった。
「佑真さん、目が怖いです」
「お前が傷つけられて許せるわけないだろ」
俺だって俺がされた事より佑真さんにあんな辛い顔をさせた兄さんは許せない。だけど俺の事でそんなに怒ってくれる佑真さんに嬉しくなってしまった。
ふっと笑い佑真さんの頬に触れる俺に眉をしかめながら、それでも優しく抱きしめてくれた。
「痛っ……」
伸ばした背中の傷口が痛みを訴え思わず声が漏れてしまう。
「脱げ」
「ちょっ……」
待ってくださいと言う間もなく上着を脱がされ直接肌に感じる空気に小さく身震いをした。
「どうして怪我をしているなら言わないんだ」
不機嫌そうな声とは裏腹に手当てをしてくれる佑真さんの手は暖かい。
「いててて……」
「まったく……お前と付き合い始めてから医者になった方がよかったかと思うくらいだ」
傷口にしみる消毒液の痛みに耐える俺に佑真さんの溜息が混じりの声が聞こえた。
「医者……佑真さんなら似合いそうですね」
「おまえなぁ……」
白衣姿の佑真さんを想像してカッコイイなと笑みを零す俺の肩にさらりと佑真さんの髪が流れ首筋に当たる柔らかな感触に鼓動が早くなる。
「佑真さん……今でも俺を抱きたいと思いますか……?」
「何があったってお前を嫌いになる事はないと言っているだろう」
肌に感じる佑真さんの手の熱さに俺の身体も熱くなる。
兄さんには恐怖しか感じなかったその熱も佑真さんだと違う意味をもってくるから不思議だ。
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