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第56話
「……で、どっちなんですか?」
「うん?」
「だからその、抱きたいのか抱きたくないのか……」
「お前……嘘だろ……」
首を傾げる俺を唖然とした顔で見つめガックリと肩を落とす佑真さんに困惑してしまう。
そんなに変な事を言ったか?嫌いにならないのとできるかどうかはまた別の話じゃないのか。
「あの……佑真さん……?」
「お前は本当に……馬鹿だな」
大きく溜息をつきしみじみと言う佑真さんに何だか俺が的外れな事を聞いた気がしてくる。
「佑真さんがはっきり言ってくれないからじゃないですか!」
「わかるだろ普通」
呆れる佑真さんにだんだん腹が立ってくる。
俺はただ今の俺でも佑真さんが抱きたいと思ってくれるのか不安だっただけだ。
それをバカだとか普通わかるだろとか……。
「俺はバカですから、どうせ普通じゃ――」
俺の不安をわかろうともしないこのイケメンに文句を言ってやろうとした俺の口は塞がれ優しい眼差しに包み込まれてしまった。
「変わらない。何があったって俺の気持ちは変わらないから不安になるな」
「じゃあ抱いて下さい……」
「翔……傷ついているお前にできるわけないだろ」
目を伏せる佑真さんに気持ちが折れそうになる。
俺を思って言ってくれているのはわかるけど……何度も断られると自信がなくなってくる。
「いつもそう言って抱いてくれないじゃないですか……」
「それはお前……タイミングってもんがあるだろ」
「佑真さんって性欲ないんですか」
冷静な佑真さんに苛立つ気持ちが抑えられない。
佑真さんは抱きたいと思っていると言うけど俺と佑真さんじゃ温度差があるんだよ。
「はぁ!?」
何を言い出すんだという顔で俺を見る佑真さんに俺も何を言っているんだろうと思う、思うけど俺ばかりが求めているみたいで寂しさや虚しさで苦しくなる感情が抑えられない。
「結局、佑真さんはシたくないんだろ!」
「そんな事、一言も言ってないだろう!」
「じゃあ勃つんですか!?」
「勃つに決まっているだろう!」
お互いが売り言葉に買い言葉で怒鳴り合い、はぁはぁと息を切らしていた。
「お前は俺に何を言わせたいんだ……」
数秒の沈黙の後、佑真さんが額に手を当て大きく息を吐いた。
わかっていたって不安になってしまうんだから仕方ないじゃないか。
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