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第60話
「翔……」
「佑真さ……ごめ、ごめんなさい」
心配そうに俺を見つめる佑真さんに胸が痛くなる。
今まであんな風に頭を下げる佑真さんを見た事がなかった。
俺のせいで自分を責めて、どんな気持ちで兄さんに頭を下げたんだろう。
「お前が謝る事じゃない、悪いのは俺なんだ」
「佑真さんは悪くない!」
切なげな顔で笑う佑真さんにしがみつき大きく首を横に振った。
「お前がそう言ってくれる度に俺は救われているんだ。だけど水沢を傷つけ、お前を傷つけた事実は変わらない」
「俺はただ……佑真さんが好きでそばにいたいだけです。佑真さんは……俺といると辛くなるんですか……?」
俺を傷つけたと自分を責める佑真さんはいつも苦しそうで、俺がそばにいる事が佑真さんを苦しめるなら俺なんかいない方がいい。
「好きだから、な。お前の事は気になりすぎて困ると言っただろう。お前が笑っていてくれるなら俺にできる事はなんでもしたいんだ」
「俺……佑真さんのそばにいてもいいんですか……?」
佑真さんがダメだなんて言わない事はわかっていても確かめずにはいられない弱い人間なんだ俺は。
「いてくれないと困る。だからもう泣くな」
俺の欲しい言葉をくれる佑真さんに抱きしめられながら佑真さんの優しさに甘えてばかりだなと苦笑が漏れた。
「今は佑真さんが泣かせているんです」
「……俺が泣かせているなら、それも悪くないな」
見上げる俺に悪戯っぽい笑みを浮かべ、瞼から頬へと啄むようなキスを落としていく佑真さんの唇が俺の唇に近付き、待ちきれず差し込んだ俺の舌を優しく包み込んでくれた。
玄関先だという事も忘れ何度しても足りない佑真さんとのキスに夢中になっていた。
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