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第63話
「そろそろ離せ」
「ご、ごめん」
俺より背の高い永徳が小さく見えてしまうくらい永徳は寂しそうに見えた。
「遅くまではいられないけど、言いたいことがあれば何でも言えよ」
「何か用事でもあるの?」
暗く沈む永徳の目を見ると今日が俺の誕生日だなんてとても言えない。
「五十嵐さんと約束でもしてる?」
「まぁでもそんなに急いではいないから」
いつもより低い永徳の声に足元から恐怖が湧きあがってくるようで身体が震え出しそうになる。
早くなる鼓動を抑えようとゆっくり息をしながら永徳から渡されたお茶をごくごくと飲み干した。
「永徳のお母さん、優しいな」
「そうだね」
ぼんやりと窓の外を眺めながら呟く永徳の横顔はやっぱり寂しそうで、何て言葉をかければいいのかわからない自分が情けなくなる。
「なぁ永徳……」
「翔は五十嵐さんが好きなの?」
「え……?」
窓の外を見つめたままの永徳に何て答えていいのかわからず固まってしまう。
「俺を好きになってよ……」
ゆっくりと近付いてくる永徳に怖さを感じておもわず後ずさった。
「お前何言って……痛 っ」
突然の頭痛にこめかみを押さえ顔をしかめた。
「どうしたの?」
永徳の声が遠くに聞こえ視界までぼやけてくる。何だこれ……。
ヤメテ ニイサン ヒドイ
『ひどいのはお前の方だろう』
頭の中に“オレ”と兄さんの声が響き渡る。
どうして今更……!
兄さんの事はもういいと思ったはずなのに。
「翔、ずっと俺のそばにいてよ……」
浅い呼吸を繰り返しこめかみを押さえる俺の手首を掴みゆっくりと覆いかぶさってくる永徳に恐怖心でいっぱいになる。
コワイ タスケテ コワイ
「やめ……ろ……」
割れるような頭痛と頭の中で鳴り響く“オレ”の声を振り払うように永徳を睨みつけた。
「あれ?翔って薬とか効きにくい?」
俺の上で首を傾げる永徳の声はいつもより少し低く、瞳は闇のように暗い。
薬?薬ってなんだよ、さっき飲んだお茶に何か入ってたのか?
起き上がってやめろと言いたいのに激しい頭痛に耐える事しかできなかった。
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