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第68話
佑真さんがバスタオルにくるんだ俺を抱きかかえベッドまで運んでくれた。
「痛っ……」
無言のまま傷口の手当てをする佑真さんの指が傷口に触れ痛みに眉をしかめてしまう。
俺が永徳に対して思った事も、こんな事になるなんて思わなくて心配かけた事も、謝りたい。
なのになんなんだこの何も言うなっていう無言の圧力は。
「熱いな」
そっと俺の額に触れる佑真さんの指がひんやりと気持ちよくて目を閉じた。
確かに熱はあるのかもしれない、だけどそんなことより、ちゃんと話がしたい……まだ残る頭痛と吐き気を振り払うように小さく息を吐いた。
「佑真さん、永徳は――」
「聞きたくない」
「佑真さん?」
何かに耐えるように唇を噛み締め眉間に皺を寄せた佑真さんがすっと俺から目を逸らした。
「お前……俺のそばにいたいって言っただろ……だからもうそれでいい」
どうして佑真さんの声がこんなに寂しそうで不安そうなのか俺にはわからない、わからないけどそれでいいって何だよ。
「俺の話を聞いてください」
「だから聞きたくないって言っているだろ」
俺の方を見ようともしない佑真さんはまるで駄々をこねる子供みたいで、いつもの佑真さんらしくない。
何が佑真さんをこんなに頑なにさせるんだろう。
「どうして佑真さんは俺の気持ちを聞いてくれないんですか……」
「聞いたってどうにもならない」
佑真さんの言葉に鼻の奥がツンとなり視界が滲んでくる。
気持ちを伝えるのは苦手だけど、佑真さんにはわかって欲しいと思うから伝えたいだけなのに。もう俺と話す事も嫌になってしまったんだろうか。
佑真さんの気持ちがわからず悪い考えばかりが浮かんできて悲しさが込み上げてくる。
すぐそばにいる佑真さんがこんなにも遠い。
「佑真さん……俺は……」
「やめろ!何も言うな……」
振り向いた佑真さんの表情は悲しそうで俺を抱きしめる身体は微かに震えていた。
『あいつのそばにいたい、話ってそれだろ』そう言った佑真さんの言葉をふと思い出した。
もしかして佑真さんは俺が佑真さんと別れて永徳のそばにいたいって言うとでも思っているんだろうか。だとしたら、とんだ見当違いだ。
俺、違うって言ったよな?この人本当に俺の話聞かねぇな!?
俺の話を聞かずに自己完結させてしまう佑真さんに腹が立つ。
「聞けって!それとも話もしたくないくらい俺の事が嫌いですか?」
「そうじゃない……俺はただ……お前を失いたくない……」
強い口調で身体を押し返すと俯き不安げに佑真さんが呟いた。
いつも自信たっぷりで落ち着いている佑真さんが俺を失いたくないと不安そうに声を震わせている。佑真さんなら手に入らないものなど何もなさそうなのに、俺なんかをそんなにまで……そう思うと愛しさが込み上げてくる。
「俺は佑真さんが好きです。そばにいたいと思うのも、そばにいて欲しいと思うのも佑真さんだけです」
俯く佑真さんの唇にそっとキスをして微笑んだ俺を優しく抱きしめた佑真さんが小さく息を吐いた。
「誰かを失う事がこんなに怖いなんて思わなかった。情けないな……」
「そんなことないです。俺しか知らない佑真さんをもっと見たい」
素肌が触れ合う心地よさと背中の傷痕をなぞる佑真さんの指に俺の熱が疼き出し、そっと佑真さんの中心に触れてみる。
「こらこらこら」
俺の手を慌てて掴み焦った声を出す佑真さんがおかしくてふっと笑った。
「おまえなぁ……」
「俺の知らない佑真さんを全部見たい、だから――」
「できるわけないだろ」
抱いてほしいという俺の言葉を遮って溜息をつく佑真さんにもう俺にそんな気はないのかと胸が苦しくなる。
「俺っ……永徳とヤってない!」
「そういうことじゃなくて、自分で気付いてないのか?お前かなり熱あるぞ」
熱は確かにあるとは思うけど……渡された服を着た俺を布団に押し込めて隣で肘をつき俺の頭を優しく撫でる佑真さんに不満を込めた目を向けた。
「そんな目で見るなよ、俺だってお前を抱きたい」
「じゃあ――」
「無理させたいわけじゃない」
「俺がいいって言っても?」
口を尖らせる俺の唇にそっと唇を重ねると優しく微笑みながらああと頷いた。
そんな風に言われたら何も言えなくなってしまうじゃないか、本当にこのイケメンはずるい。
「佑真さんは俺のどこがよくてそばにいてくれるんですか?」
「俺の方がそう思っているんだが……難しい質問だな。どこだろうな、お前の事が気になってお前の笑顔も怒った顔も泣いている顔も全部俺だけのものにしたくて、気がついたら離したくないと思っていたかな」
何でもない事のようにさらっと言葉にする佑真さんに俺の方が恥ずかしくなってくる。
「も、もういいです」
「そうやって恥ずかしがる所もかわいいと思うし――」
「もういいですって!」
熱くなる顔を隠すように布団を頭までかぶる俺にくっくっと楽しそうに笑う佑真さんの声が聞こえた。
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