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第71話
学食で飯を食おうと藤崎に誘われるまま俺は久しぶりに聖応大学に来ていた。
「懐かしい?」
「ああ」
ほんの1年前まで通っていた見慣れた景色を懐かしむ俺に藤崎が笑みを浮かべていた。
「そういや水沢、学校変わって彼女できたか?」
「できてない」
変わらない藤崎に思わず苦笑してしまう。
合コンとか女の話とか相変わらず好きなんだな。
「悪いな水沢、合コンはしてやれない」
「へ?」
真面目な顔で何を言い出すんだ。だいたい藤崎に合コンしてくれなんて頼んだ事はねぇよ。
藤崎の的外れな意見はさておき、あんなに合コン好きだった藤崎が合コンをしないなんて何があったんだ。
「先月にした合コンでついに俺にも彼女ができたんだ!」
立ち上がり大声を出して学食内の注目集める藤崎に俺の方が恥ずかしくなり他人のフリをしたくなる。
「それはよかったな」
「何だ羨ましいのか、そうだろうな」
どこをどう聞けば羨ましく聞こえたのかはわからないけど、うんうんと頷く藤崎の嬉しそうな顔に本当によかったなと思った。
「同じ学校の子?」
「あ、やっぱ気になる?学校は違うんだけどさぁ、同じ教育学部で――」
嬉しそうに目を輝かせている藤崎には悪いけど正直全く気にならない。ただあまりにも聞いて欲しそうな顔をしている藤崎を無視できなかっただけで。
「あぁ藤崎も教育学部だったな。教育実習ってもう終わった?」
「水沢って心理学じゃなかった?」
「教師になろうと思って、それで――」
「水沢が教師!?」
何をそんなに驚くんだ藤崎。俺はお前が教師になる方が驚きだよ。
「教育実習な……俺は終わったけどあれは地獄だったぞ……」
誰が見たって俺の方が教師に向いてるだろという目を向ける俺によほど辛かったのか藤崎の顔が曇る。
「そんなに大変なのか、佑真さんは少し面倒だったくらいにしか言ってなかったけど」
「五十嵐先輩と連絡とってんの?」
「あー……とってるっていうか、一緒に住んでる」
「え!?何でそんなことになってんの?」
身を乗り出した藤崎が興味津々という顔で俺に詰め寄ってくる。
「色々あったんだよ」
面倒臭そうな顔をする俺に話す気がないと察したのか不満そうに座り直した。
「まぁでも、五十嵐先輩と比べるのは間違いだって。あの人は何でもさらっとこなすだろ。水沢はいつなんだ?」
藤崎の言葉にそれもそうだなと納得して頷く。だとしたら藤崎の表情があんなに曇るほど大変なのか。
「来月だな」
「俺の彼女も去年やったらしくて大変だったって言ってたなぁ」
彼女の話になると顔が緩む藤崎の気持ちもわかる気はするけど、俺も佑真さんの話をしている時ってこんな顔をしているんだろうか……気を付けよう。
「同い年なのか、彼女」
「いや、1つ下で短大に通ってるよ」
「へぇ。俺も短大だけど同じ学校だったりしてな」
「麗明とか言ってたかなぁ」
「俺もだけど……」
何気なく言っただけなのに本当に同じ大学だったことに驚きを隠せない。
「水沢、麗明だったのか偶然だな。学校で会えるのはいいよなぁ」
藤崎はたいして驚いた様子もなく羨ましそうな顔をしている。
藤崎のいう事もわかるな。佑真さんと同じ学校なら今より一緒にいられる時間が増えるのに。
藤崎に写メ見る?と嬉しそうに二人で撮った写メを見せられた俺は世間の狭さに言葉を失った。
「かわいいだろ?」
「秋穂さん……」
「え?秋ちゃんのこと知ってんの!?」
小さく呟く俺にさすがの藤崎も驚いたようだ。
秋ちゃんて……お前が秋穂さんをどう呼んでいるかなんて俺は知りたくなかったぞ。
「知ってるも何もこの人サークルの先輩」
「何言ってるんだ水沢、秋ちゃんは年下だぞ」
「お前が何言ってるんだ。俺は麗明の1年だよ」
俺の言葉にしばらく考え込んだ後、なるほどと何度も頷き今度3人で飯でも食おうぜという藤崎に適当に相槌をうった。
それにしても秋穂さんに最近出来た彼氏って藤崎かよ。飲み会の誘いが減ったのは藤崎のおかげだったのか。
「でもやっぱ同じ学校っていいよなぁ。五十嵐先輩だって院に進んだ時は驚いたけど同じ学校にいたかったんだろうしな」
「は?」
「なんだ水沢知らなかったのか、1年の木下美咲っていって入学当初から美少女って騒がれてたんだけど、お互い知り合いだったみたいで入学前から付き合ってたんだろうって」
「知らない」
藤崎の言葉が頭でぐるぐる回る。入学前って俺と一緒に住み始めた頃だよな。
その頃から付き合ってたって?そんなはずない、俺は佑真さんから何も聞いてない。
藤崎の情報を信じる方がどうかしてる。わかっているのに一度感じた不安は消えてくれない。
「学校ではいつも一緒にいるし、羨ましいよなぁ」
「藤崎の情報なんてあてにならないだろ」
「お前ひどいな!五十嵐先輩がそう言ってたんだぞ!」
「え……?」
藤崎の言葉に不安で高鳴る鼓動が一層早さを増した気がした。
佑真さんがそう言ってたって?佑真さんは俺と付き合っているよな?
佑真さんがモテるのは知っているけど、二股とかするような人じゃないはずだ。
じゃあどうして付き合ってるなんて……。
「お、噂をすれば」
窓の外を見る藤崎の視線を追うと佑真さんの腕に両腕を絡ませ楽しそうに笑う女の子が見えた。
さらりと流れる長い黒髪は白い肌を引き立たせ、大きな瞳が少女のように愛らしい。遠目でもわかるくらい確かに美少女だ。
「お似合いだな」
「だろー。水沢も彼女作れよ」
素直にそう思い呟く俺に聞こえた藤崎の声に余計なお世話だよという気力はなかった。
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