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第73話
「――翔、翔」
「え、何?」
「もう授業終わったよ」
肩を揺すられ驚いて顔を上げると永徳が苦笑していた。
「あ、あぁ……」
「何かあった?」
「キスって気持ちいいもんだよな」
机を片付けながら独り言のように呟くと永徳の乾いた笑いが聞こえた気がしてしまったと思った。
俺に酷い事をしてしまったと気にしている永徳に今の発言は無神経すぎる。
「そうだね、好きならそうかもしれない」
ごめんと謝る俺に首を振って寂しそうにそう笑った。
好きなら、か……でも俺は佑真さんの事が好きなんだけどな。
そばにいたいし、離れたくない、じゃあ昨日は何で……。
考えはじめると好きが何なのかもわからなくなってくる。
「翔君~」
手を振りながらこっちに向かってくる秋穂さんがぼんやりと視界に入った。
「翔君ごめんね!」
「え?」
両手を顔の前で合わせながら俺に頭を下げる秋穂さんに首を傾げた。
「翔君って藤君と同い年なんだってね、私今まで偉そうな事言っちゃったりしてたから……」
藤君……藤崎か。
あぁなるほど藤崎から俺の事を聞いて俺が秋穂さんより年上だって知ったのか。
「秋穂さんより後輩なのは変わらないですよ」
「敬語じゃなくてもいいよぉ」
意外と律儀な秋穂さんに思わず笑ってしまう。
「翔って何歳なの?」
「こないだ22歳になった」
「え!?」
「ねー。見えないよね」
驚く永徳に同意を求めるように首を傾げる秋穂さんに永徳が大きく頷いている。
この二人には一体俺がいくつに見えてるんだよ、いや聞きたくないけど。
「俺の方が年上だと思ってた」
「永君は私と同じなんだよねー」
「じゃあ二人共もっと俺を敬えよな」
まだ信じられない顔をしている永徳と秋穂さんに苦笑しながら言うと無理無理と二人そろって笑い出した。
楽しそうに笑う二人を見ていると少し気が晴れた気がした。
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