77 / 91

第77話

 勢いで来てしまったものの……好きじゃないかもしれないと言ってしまった後であれは間違いでしたとどんな顔して言えばいいんだろう。 乱れた呼吸を整えながらマンションを見上げた。 まだ頭の整理がつかない俺の視界に遠目でもわかる美少女、木下美咲が映った。 佑真さんの所に行っていたのか……気分は重くなったけど、どうでもいいとは思わなくて、ちゃんと佑真さんの口から聞きたいと足を踏み出した。 「あー!翔!」 一瞬目が合いすれ違った後、大きな声で呼ばれた名前に驚き身体が固まってしまう。 「だよね?」 背後から聞こえる愛らしい声にゆっくり振り向くと大きな瞳で首を傾げながら美少女が俺を見ていた。 近くで見ると本当に可愛い。 「そうですけど、どうして俺の事……」 「だって祐が翔が翔がって写メまで見せながらあなたの話ばかりするから」 思い出してふふっと笑う顔もまた可愛い。 この人って佑真さんと付き合っているんじゃないのか? そうじゃなかったとしても家まで来るって事はやっぱり好きなんだよな。 好きな人が他の、しかも男の話ばっかりしていてこんな風に笑えるもんなんだろうか。 俺なら嫌だけど……何も話されないのもそれはそれで腹が立つけどな。 あぁ、俺は何も言ってくれなかった佑真さんに怒っているのか。 今更気付いた自分の気持ちに苦笑が漏れる。 「意外でしょ?私もあんな祐を初めて見て驚いたの」 「そうだね」 俺の苦笑を勘違いしたのか楽しそうに笑う美少女に頷いて笑い返した。 「連絡とれないから様子を見て来てくれって頼まれて来たんだけど追い返されちゃって、機嫌悪いみたいだから気をつけてね」 天使のような微笑みでじゃあねと手を振りタクシーに乗り込んで美少女は行ってしまった。 あんな可愛い子を追い返すほど機嫌が悪いってどれだけなんだ。 怒ると怖い佑真さんの冷たい目を思い出し、一人にしないでほしかったと溜息をつきながら部屋に向かった。

ともだちにシェアしよう!