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第79話

「お前がキレる所を初めて見たな」 ふっと笑う佑真さんに俺の気持ちも落ち着きを取り戻した。 「佑真さん、木下美咲って子と付き合ってるんですか?」 「は?どうしてお前が美咲を知っているんだ」 「この間、藤崎に会って聖応に行ったんです。そこで佑真さんとその子がすごく仲良さそうで……」 「それがどうして付き合っている事になるんだ」 困惑したような顔でじっと俺を見つめる佑真さんに俺の方が困ってしまう。 本気で付き合ってるなんて思っているわけじゃない、佑真さんから直接違うと言って欲しかっただけだ。 あの時の二人を思い出すとやっぱりお似合いだと思うけど、今は俺じゃない誰かが佑真さんの隣にいる事に苛立ち、悲しくなってしまう。 「藤崎が佑真さんから聞いたって……」 「付き合ってもいないのに言うはずないだろ。付き合っている人がいるのかと聞かれた事はあったけど、それを藤崎が誤解したんだろ。だいたい藤崎の言う事を信じるなよ」 「信じてませんよ」 即答する俺に大きく溜息をついた佑真さんが怪訝そうな顔を向けた。 「佑真さんから直接聞きたかっただけです」 「それに美咲は俺の従妹だ。美咲の親から面倒見てやってくれって頼まれて仕方なく」 佑真さんの言葉に驚きつつも納得してしまう。 顔の系統が同じなんだよな、そりゃお似合いなはずだ。 「怖くなったんです。二人がすごくお似合いで、自然な感じがして……でもそうなったら俺はどうしたらいいのかわからなくなって、俺はあの子みたいに可愛くもないし、何の役にも立てなくて……」 「翔」 俯く俺を抱き上げ膝に乗せて向かい合った佑真さんの眼差しが優しくて、どうして離れても平気だなんて思えたのか自分が信じられない。 「佑真さんを失う事が怖くて、好きじゃなくなれば怖くなくなるって思ってしまったんです」 「お前が怖いと思うのと同じように俺もお前を失うのが怖い。お前は信じてくれないけどな」 額をこつんと合わせふっと微笑む佑真さんに鼓動が早くなり好きが溢れてくる。 「信じてないわけじゃない」 「不安になるのは仕方ないが、今度からは相談してくれると助かる。またお前に好きじゃないと言われたら俺の身が持ちそうにない」 「ごめん、ごめんって」 合わせた額をぐりぐりと押し付けられ避けようとする俺の頭を引き寄せ角度を変えた佑真さんの唇と重なった。 待ち切れず差し込んだ俺の舌を優しく迎え入れ軽く歯を立てられると身体がびくりと跳ねた。 「好きだ」 そっと唇を離した佑真さんの透き通るような声に笑みを浮かべもう一度深く唇を重ね合わせた。 「佑真さん……俺……眠気が限界……」 零れる吐息は熱く、今すぐにでも抱かれたいと佑真さんを求める熱に身体が支配されていく中、平均睡眠3時間の俺の眠気は限界らしく性欲を上回ってしまった。 そんな俺を見て楽しそうに笑いながら軽々と抱き上げベッドまで連れていってくれた。 少し冷たいシーツが俺の熱を冷ましていき、頭を撫でる佑真さんの手に目を閉じるとあっという間に睡魔に引きずり込まれていった。

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