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第86話
結局、教育実習が終わるまで佑真さんのマンションに帰る暇も気力もないほど忙しく、最終日の土曜にお疲れ会という名の飲み会に連れて行かれ俺の教育実習は疲労困憊で幕を閉じた。
「会いたいなぁ……」
スマホの時計は終電には間に合わない時間を告げていて、佑真さんに会えるのは明日になるのかとがっかりして呟いた。
飲み会が決まった時、佑真さんには帰れるのは日曜になりそうですとメッセージを送るとそうかと短い返事が来ただけだった。残念そうな猫のスタンプは付いてきたけど……そういうことじゃない、寂しいとか会いたいとか、そういうのがないのかあの人は。
なさそうだよなぁ。一生会えないわけじゃあるまいし、たった一日だろ、とか思ってそう。
慎吾もそうだけど基本は優しいのにどっか冷めてるっていうか、俺ばっかりが好きな気がしてそれが少し寂しくなってしまう。
あぁ何かだめだな、疲れてると気持ちが暗くなってしょうがない。もう今日はさっさと寝て明日始発でマンションに帰ろう。
よしと小さく息を吐き慎吾のアパートに向かって足早に歩き出した。
慎吾のアパートの前に止まる車にまさかと思いながら部屋へ飛び込んだ。
「おかえり」
「佑真さん!」
久しぶりに見る佑真さんの笑顔に思わず抱きつく俺の腰に手を回しぎゅっと抱きしめ返してくれた。
背中から聞こえたわざとらしい咳払いに慎吾の家だったと我に返り慌てて佑真さんから離れて振り向くと心底嫌そうな顔で慎吾が頬を引きつらせていた。
「あー……ごめん」
「帰ってからやってくれ」
慎吾の言葉に乾いた笑いを返しながらもう一度ごめんと謝った。
「慎吾、長い間ありがとな」
車で待っていると出て行く佑真さんに頷き、3週間文句も言わず……いや、小言は言われたが、それでも面倒を見てくれた慎吾に慎吾が俺の友達でよかったと思った。
「高校の時に戻ったみたいで楽しかったから、気にすんな」
普段は素っ気ない慎吾の優しい言葉に泣きそうになってしまうから困る。
「慎吾ぉ……」
「泣くなら車の中で泣け」
「ありがとう」
わかったから早く行けと苦笑しながら俺の背中を押す慎吾に笑顔を向け、佑真さんの車へ乗り込んだ。
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