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第87話

「やっと終わったぁ」 疲れた身体をソファに沈ませ、大きく息を吐き目を閉じた。 「お疲れ。そこで寝るなよ?」 俺の頬に触れる佑真さんの手にそっと手を重ね、ゆっくり目を開けた。 「俺がいなくて寂しかった?」 「ああ」 「本当かよ……」 佑真さんの寂しさが本当だとしても、気持ちの大きさは見えないからわからない。 好きの重さが計れる天秤があったらきっと俺の方が重い。それが少し俺を不安にさせる。 「わかってないな翔。早く会いたいから江角の家まで迎えに行ったんだろう」 俺を見つめる佑真さんの眼差しは優しいのに……なのにどうして不安になんてなるんだろう。 「わかってないのは佑真さんの方です。俺の方が佑真さんの事を好きだから……」 そばにいるのに不安になる。佑真さんを好きになって初めて知ったこの不安がどうしたら消えるのかわからない。 「どうしてお前は――」 佑真さんの言葉を遮るように俺のスマホが着信を知らせ鳴り出した。 こんな時間に誰だよとスマホに手を伸ばし、表示される着信相手の名前に藤崎なら時間など気にせずかけてきそうだなと納得してしまった。 「はい」 『水沢?俺だけど!お前ってもう教育実習終わった?』 佑真さんから離れ通話ボタンを押すと耳に当てなくても聞こえるくらい大きな藤崎の声が聞こえてきた。 「今日終わったよ」 『じゃあ来週あたり飯でも食わねぇ?』 何だそのじゃあって。約束するのも億劫なほど今の俺は疲れているけど断ると面倒臭そうなので黙っていることにした。 「まぁ……来週なら」 『よかった!秋ちゃんが一緒に飲もうって言っててさぁ』 飯じゃねぇのかよ。まぁ秋穂さんがいたらそうなるんだろうけど。 「じゃあ来週――」 『あ、今、秋ちゃんと一緒なんだけど秋ちゃんと水沢の話になって翔君に悪い事したって気にしててさ、秋ちゃんいい子だろ、かわいいしさぁ――』 「わかったわかった、来週な。じゃあな」 藤崎のノロケ話を遮って通話を切った。 慎吾、今なら俺のノロケ話を聞くほど暇じゃないと言ったお前の気持ちがわかる。 仲が良いのはいい事だけど内容は知りたくない。

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