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第89話
どう言ったって俺のこの感情が佑真さんに辛そうな顔をさせてしまう。
俺といる事で辛い思いをするならきっと嫌になる。
「佑真さんだってきっと……俺なんかいらなくなる……」
ずっと俺の中にくすぶり続けていた想いが小さく零れ落ちた。
俺の手を握りしめる佑真さんの手に雫が零れ落ち、見上げた佑真さんの目が涙で濡れていた。
「お前が何よりも大事だ……俺のそばで笑っていてほしいだけなんだ……」
そっと手を伸ばし指に伝わる佑真さんの涙のぬくもりに欠けていた何かがぴったりとはまる気がした。
いつだって差し出されたその手を信じる事を怖がり掴めなかった。
「ごめ……ごめんなさい……」
不安で、苦しくて、切なくて、それでも求めてしまうこの感情が人を愛するという事なのだと、そんな簡単な事に俺は今まで気付けなかったんだ。
「翔……」
おいでと差し伸べられた佑真さんの手をとり立ち上がる俺を抱き上げそのままソファに座った。
「俺だってな、いつかお前が俺から離れていってしまうんじゃないかと考えたら怖くなる。
だけどそんな不確かな事に怯えるよりも、お前と過ごせる今を大事にしたい」
「佑真さんも不安になる?」
肩に乗せた頭を上げると優しく微笑む佑真さんの目元が照れたように赤みを帯びていた。
「お前のそばにいる限りその不安は消えない。だからこそ、そばにいられる間は今だけは大丈夫なんだとお前を感じていたい」
「佑真さん……」
佑真さんの言葉が俺の消せない暗い気持ちごと暖かく包み込んでくれて、この人のそばにいてもいいんだと強く思わせてくれた。
大事なことにいつも気付かせてくれる佑真さんに好きが溢れてたまらなくなり、暖かい眼差しを見つめながら唇を重ねた。
重なりあう唇は深さを増し、全身が佑真さんが欲しいと熱く騒ぎ出す。
「翔が欲しい」
離れた唇は銀色の糸を引き、熱を帯びた佑真さんの声に心臓を高鳴らせながら小さく頷いた。
「あ、でも……シャワー浴びてきてもいいですか」
俺だって今すぐにでも佑真さんが欲しいけど……そう簡単にもいかない自分の身体が恨めしい。
「あぁ、俺も一緒に入る」
「へあ!?だ、だ、だめです」
この人は何を言い出すんだ。一人で慣らすのも恥ずかしいのに、佑真さんの前でなんてとてもできない。できないって事はできなくなるわけで……。
「いいから、ほら」
「ちょっ……待っ……!」
慌てる俺の腕を引っ張り悪戯っぽい笑みを浮かべた佑真さんに浴室まで連れて行かれた。
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