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「竜介さん、お疲れ様でした! 色々勉強させてもらえて、本当に嬉しかったです」
ビルを出てから頭を下げると、竜介が下げた俺の頭をぐりぐりと撫でてくれた。
「やる気のある奴は大歓迎だ。こっちこそ見られてると思うと良い刺激になったよ、ありがとうな亜利馬」
「あ、そういえばもうこんな時間ですけど、シロ達のお世話は……」
「大雅が見てくれてる。あいつも猫好きだからな。クロもあいつには懐いてるし」
「そっか、良かった……」
「俺はこれから飲み会に顔出してくけど、亜利馬はどうする。一緒に行くか?」
「いえ、俺はここで失礼します。皆さんによろしくお伝えください」
「何でそんなかしこまってるんだ」
へへ、と笑って、俺は竜介を見上げた。彼のような先輩と一緒のグループに加入できて、何だか誇らしかった。
「じゃあな、亜利馬。またそのうち。気を付けて帰れよ」
「はい! 竜介さんも気を付けてくださいっ!」
手を振り、交差点を渡って行く竜介の背中を見つめながら俺はかつてないほどのやる気に満ち溢れていた。――やるぞ。やるぞやるぞ。
やるからには俺も、沢山の人に愛してもらえるようなモデルを目指すぞ。
「獅琉さんっ」
「わ、びっくりした。おかえり亜利馬。竜介の見学、どうだった?」
「凄かったです。本当に色々、凄くて……凄く凄かったです!」
「凄さだけは伝わったよ。良かったね亜利馬」
「はいっ!」
それから風呂に入って、俺は自分で自分の指をそこに挿れながら「表情の演技」の練習をした。痛い時、気持ちいい時、恥ずかしい時――色々なシチュエーションに対応できるように、表情だけで感情が伝わるように。
「あぁ、……嫌っ、やめろ……」
カズトの悔しそうな顔を思い出しながら、そして嬉しそうな顔の竜介に攻められていると仮定しながら、指の動きを速めてゆく。
「くっ、……やめろ……やめ、てくれ……!」
「亜利馬っ?」
「どぅわっ!」
突然背後でバスルームの扉が開かれ、慌てた様子の獅琉が現れた。
「大丈夫? タオル置きにきたら、何か……苦しそうな声が聞こえたけど」
「だ、大丈夫です。気にしないでください。――あ、ていうか今日の夕飯何でしたっけ?」
「カレー作ってあるけど。……もしかしてオナニーしてた?」
「してませんっ」
「そんなの、言ってくれれば手伝うのに」
「してませんってば!」
なかなか竜介のように上手くはいかないかもしれない。
それでも今日の俺はまた一つ、昨日よりも大きくなれた気がして満足だった。
「いいよ、見ててあげるから続きしてみて」
「い、嫌ですよ! 絶対嫌ですっ!」
――五月一日。俺のデビューまで、あと少し。
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