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「あぁっ!」
きつい競泳パンツに押さえ付けられていた俺のペニスが、反動でぶるんと飛び出す。恐々目を開けてそこを見ると、俺のそれは思い切り反り返っていた。照明で白く光っているそこへとカメラが寄り、それこそねっとりと舐めるように映される。
「ふ、あ……」
愛撫を求めてピクピクと痙攣しているペニスには、まだ触れてもらえない。露出したまま放置という状態が歯がゆくて、俺は既に濡れている自身の先端を涙目で見つめていた。
「触って欲しそうだね、亜利馬」
こくこくと頷いてねだったが、まだ触れてもらえない。この後の展開も分かっているのに、……分かっているからこそ、今すぐ刺激が欲しくて堪らなくなる。
「どうして欲しいか言ってごらん」
「あ、……俺の、ぉ……」
普段なら何の躊躇いもなく言えるのに、こういう時にそれを言うとなると、何でこんなに恥ずかしくなるんだろう。
「俺の、……おちんちん、触って、……欲しい……」
無理矢理そういうことを言わせるのも一種のプレイらしい。乳首の時と同じように、普通なら「よく言えたね。ご褒美だよ」となって、極上の愛撫を受けられそうなものだけど……俺の場合、この後が全くの未知プレイとなっている。
「よく言えたね亜利馬。ご褒美だよ」
俺のパンツを脱がしたモデルが、画面外から手渡された「ソレ」を俺に見せる。黒いシリコン製の「ソレ」は手のひらに収まるほどのサイズで、形だけでいうと小型のシェーバーみたいだ。もちろん素材も用途も違うけれど。
底には穴が空いていて、そこからペニスを突っ込むこととなる。
「あ……」
垂直に上を向いた俺のそれに、黒いシリコンの玩具が装着される。穴の中は温かく、微妙な凹凸がたくさん付いている感じがした。
亀頭だけをすっぽりと包み込んだそれの本体には、電源の青いライトが小さく光っている。モデルが手にしたリモコンから色々な操作ができるのだ。
息を呑み、一体どうなってしまうのかを待つ。
「――ふ、ぁ……? あ、何……何これ、……」
ゆっくりと動き始めた内部の凹凸。それと同時に、――
「……ああぁっ! あっ! だ、だめ、だ……! んっ、あぁぁ……!」
ペニスの先端に物凄い振動がきて、俺は座ったまま足に力を込めて腰を浮かせた。纏わり付く凹凸と痺れるような振動。取って欲しくて腰を振るが、俺のペニスが揺れるだけで玩具は亀頭に吸い付いたままだ。
「やっ、あぁぁ……! これ、やだっ……あぁっ、――あんっ!」
もはや演技でも何でもない。本気で止めて欲しいのに、なのに……
「やあぁっ、……! は、ぁ……もう、あぁっ……!」
リモコンを持ったモデルがそれを取ってくれるどころかその場にしゃがみ、ペニスと一緒に露出していた俺の二つの膨らみの片方を頬張ってきた。
「んやっ、あぁ……!」
同時に左右の乳首もまた激しく嬲られる。全ての性感帯をめちゃくちゃに愛撫されて、俺は半ば本気で泣いてしまった。両手を拘束されているから涙も鼻水も拭けない。ぐちゅぐちゅと玩具に吸われている俺のそこも、もはや大号泣だ。
――縛られてるなら動かなくていいんだもん。
ユージさんの言葉が頭に過ぎったが、とんでもない。こんなのがずっと続いたら頭がおかしくなってしまう。
「やだ、……やだぁっ……! あぁぁっ、――!」
頑張れ、亜利馬。もう少しで射精していいタイミングがくる。だからそれまで耐えろ。頑張れ……!
「んあぁっ、んンっ……! やっ、あぁ……!」
これはもう己との闘いだ。快楽と理性の間で行ったり来たりの俺の精子。その精子が詰まっている玉はしゃぶられているし、先端は塞がれているし、何も出ない乳首も吸われまくってるしで、もう、……俺はもう――
「イく……! イっちゃ、う……!」
ちょっとタイミングは早かったかもしれないけど、これ以上はとても我慢できなかった。
「もう無理っ、ぃ……! イくっ――」
玉を舐めていたモデルが立ち上がり、亀頭の玩具を素早く外した。そして――
「んあぁっ……!」
恐らく十八年間生きていて初めてというほどの量と飛距離を兼ねた精液が発射された。
「はあぁ……ああぁ……おかしく、なっちゃ、……」
無意識で呟いた俺の顔にカメラが寄る。あと一歩で白目を剥いていたのではと思うほどの酷い顔がアップで映されたが、今の俺にはもう、恥ずかしさなんて微塵も残っていなかった。
*
シャワーを浴びる気力すらないけど、次があるから浴びないわけにいかない。未だに脚と腰がガクガクしているが、俺はシャワー室の壁に寄りかかってぼんやりと体を洗った。
「亜利馬くん、お疲れ~」
シャワー室のドアが開き、デジカメを手にしたスタッフが陽気に声をかけてきた。
「つ、疲れたぁ……もう立てない」
「亀頭ローターどうだった?」
「あれマジでヤバいっす……考えた人凄過ぎ」
多分、オフショットとしてDVDに収められる動画だ。……本当は「何てモン作ってんだマジで」くらい言いたかったけど。
「竜介とも、同じプレイもっかいやる?」
「いやいやいや、無理ですって!」
嘘だよ~と言って、スタッフがシャワー室のドアを閉めた。
「……ふあぁ」
再び壁に寄りかかり、あくびのような気だるい溜息をつく。今すぐ眠りたかった。
椅子の撤去と掃除が終わった後は、同じビル内にある別のスタジオに移動だ。今回のDVDには俺以外の企画モデルも出るということで、あのフロアはまた別のモデルが今度はマットレスを使って凌辱されるとのことだった。
有難かった。例えばチャプターが五本あるとして、それ全部に俺が出てさっきみたいな衝撃射精をさせられるくらいなら、アルバイトや小遣い稼ぎを理由に来てくれたモデルさんに一、二本くらい請け負ってもらえる方がいい。
山野さんや潤歩からは「プロ意識が欠けてる」と言われそうだけど、実際あれを味わってしまった俺は今、AVって本当に大変なんだと心から実感している。前に獅琉が二十回イッたと言っていたけど本当なんだろうか。今の俺はもう本当に、今すぐ、とにかく横になってしまいたかった。
「竜介さん、いつ来るんですか……?」
別スタジオはグレーの壁紙に覆われたお洒落なセットで、ダブルベッドや床、ドアもモノトーンで統一されている。用意されていたパイプ椅子に座って隣の山野さんに訊くと、「あと一時間くらいだな」と返答された。
「一時間も……」
「控室で寝てもいいぞ」
「……あのベッド使ったら駄目ですか?」
「………」
山野さんが膝の上で開いていたパソコンから、俺に視線を移動させる。
「……う、嘘です」
仕方なく俺は立ち上がり、予定より早くユージさんの待つ控室へ行って仮眠を取ることにした。
「すいませんユージさん、ちょっと寝かせてもらってもいいですか」
有難いことにメイクルーム兼控室には大きなソファがあり、俺は入って早々倒れ込むようにしてソファへ体を横たえた。
「お疲れ様。ヘアメの時間になったら起こすね」
「お願いします……」
タチでもウケでも体力勝負なんだな、と思う。今日はこの後で竜介との絡みを撮って、明日は一日かけてジャケットの撮影をして、……まだまだやることはたくさんある。
「………」
「おやすみ、亜利馬くん」
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