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 一瞬ストンと意識が落ちただけで、五分もしないうちに体を揺すられた気がした。 「んぁ……もう時間ですか」 「うん、一時間くらいは経ったよ。そろそろ竜介くんも着くって」 「えっ? もう?」  慌てて身を起こし、辺りを確認する……ここは控室か。そうだ、ついさっき撮影が終わって、これから竜介との次の撮影があるんだっけ。 「顔洗ったら髪セットするね。もうちょっと頑張って、亜利馬くん」 「は、はい……」  ユージさんに言われてソファを降りた俺は、そのまま控室内の簡易的な洗面所で冷たい水を顔に浴びせた。 「朝ごはん少なかったでしょ。何かお菓子食べる?」 「あ、頂きます。いいんですか?」 「うん。亜利馬くんが好きそうなの買っておいたから、ヘアメしてる間に適当に食べてね」  俺が寝ている間も、こうして髪を弄られながらポップコーンを食べている間も、現場のスタジオでは監督や山野さんやスタッフの皆が大忙しで動き回っている。場合によってはベッドの角度も変えるし、テーブルや椅子の配置、撮影に関係ない小道具の位置も変える。 今日は竜介のスケジュールの都合もあったけど、スタジオだってレンタル料金が発生しているのだから、準備も撮影も早く終わらせるに越したことはないのだ。 「おお、亜利馬。待たせて悪いな」 「竜介さん。お疲れ様です!」  控室に竜介が入ってきて、俺とユージさんは揃って背後のドアに顔を向け、頭を下げた。 「竜介くんおはよう」 「おはよう雄二。今日も爽やかだな!」  俺のヘアメイクが丁度終わって、場所を竜介と交代する。竜介の髪が若干濡れているのは、前の現場でシャワーを浴びてきたからだ。  仕事量は俺より多いのに、与えられた時間は平等。竜介は移動車の中で軽食をとって仮眠して、またここで体力を使いまくって、夜頃にようやく帰宅する。竜介だけじゃなく皆、そんな日が定期的にやってきて体を壊さないのだろうか。 「よし。頑張るぞ!」  竜介が少しでも早く帰れるように、俺も気合を入れないと。 「やる気満々だね、亜利馬くん」 「あとはやる気に体力が付いてきてくれれば、良いんですけどね」  今回はドラマ仕立ての撮影だから、撮るシーンが凄く多い。俺が部屋に一人でいるところ、竜介がドアから入ってくるところ、それを出迎えて軽くイチャつくところ、俺がシャワーを浴びているところ、それを竜介が待っているところ……とにかく沢山だ。てきぱき動いて一つずつこなしていかないと。出来れば竜介のためにも、今日だけで撮影を終わらせたい。  ……それに今回は、俺がずっとやりたかった「ドラマ」だ。「演技力なんて求められていないのだから、棒読みでもいい」と山野さんは言っていたけど。どうせなら絡み以外の演技だって上手くなりたい。  台本をもらってからこっそり練習だってしたんだ。設定は「竜介というご主人様にべた惚れのチョイM男子」だから、無表情の棒読みで「おかえり。大好き」なんて言っても説得力がない。……俺の役が大雅ならまだ分かるけど。 「亜利馬くん、竜介くん、入ります!」 「お、お願いします!」  サラリーマン風のスーツに着替えた竜介と、Tシャツにハーフパンツという部屋着スタイルの俺。家の中で竜介に「飼われている」俺は、いつでも部屋着という設定なのだ。 「頑張ろう、亜利馬」 「はいっ」  俺がリビングで雑誌を読んでいるシーンから始まり、ピンポンが鳴って竜介が帰ってくる。それを「お帰り!」と抱き付いて出迎え、軽いキスをする。 「いい子にしてたか」 「うん。待ってた!」  俺の顔が赤いのは役に没頭できているからではなく、初めて竜介とキスをして何か照れ臭かったからだ。 「お仕事どうだった?」  リビングで向かい合って座り、会話シーンに入る。 「ああ、プロジェクトも順調だ。この分だと来週にはひと段落つきそうだな」 「やっぱ竜介は凄いね。大好き」  すらすらと台詞を言う竜介に対して、俺はますます顔が赤くなる。あんなに練習したのに、竜介を呼び捨てにするだけで赤面してしまうなんて。  もう、勢いでいってしまうしかない。 「じゃあ、俺がいっぱい癒してあげる」 「それは楽しみだな」 「シャワー浴びてくるね」  立ち上がった俺が画面から消えた数秒後、「オッケーです!」の声がかかった。  そうして次は俺のシャワーシーン。全裸の体を上から下までしっかり撮られて、一時間前は玩具を装着されていた股間のそれを洗うついでにちょっと揉んだりして、ほんの五分くらいで終了。  体を拭いてもらっている間、隣では竜介一人がリビングで煙草を吸ったりスマホを弄っているシーンを撮り、次はリビングのテーブルの上で絡むシーンだ。  Tシャツにボクサーパンツだけになった俺を、スーツ姿の竜介が思い切り「凌辱」する。テーブルに倒されて獣の勢いで体中を舐められ、乳首を抓られ吸われ、舌を絡ませながらの激しいキスをする。初めての竜介との絡みシーンは、驚くほど甘くて気持ち良かった。竜介がちゃんと俺をリードしてくれているのが分かるからこそ、演技なんてしなくても俺もそれに応えられていると実感できた。 「あぁ――あ、気持ちいい、竜介……」 「はしたないぞ亜利馬。こんなに濡らして」 「あ、あ……お、お仕置き、して、……」 「悪い子だ」 「あぁっ――」  尻の方からパンツが下ろされ、テーブルの上で股を開く恰好になる。そのまま膝の裏側を押さえられて腰が浮き、竜介の前に俺の尻の穴が露出する。 「……ん、んぁっ!」  開脚椅子でしたプレイよりはずっとソフトなものなのに、何故だかあれより熱くなる。会陰部を舌でなぞられるというただそれだけのことで、頭の中がとろけ出す。俺は開いた口から涎が垂れるのも気にせず、結合部分を愛撫する竜介の舌に身を委ねた。 「あ、危うく鼻血が……」 「はっはっは。それは光栄だな」  テーブルでのイチャつきプレイが終わって、次はベッドで本番シーンだ。俺は自分のそれを勃たせたままシャワー室に移動し、髪を濡らさないように体を洗って再びスタジオに戻り、ガウンを脱いで全裸待機した。  竜介もスーツを脱いでパンいちになっている。見惚れるほど逞しい体……。俺は、今からあの体に抱かれるのか。 「隙あり!」 「うへぇっ? な、何ですか!」  せっかく落ち着いていた股間を竜介に鷲掴みにされ、思わず飛び上がってしまう。周囲で笑いが起き、そこもばっちりスタッフが構えるデジカメに収められた。 「亜利馬くん竜介くん、スタンバイお願いします」  ベッドの前で竜介と抱き合い、片脚を持ち上げてもらう。絡み合ってもつれ合うようにベッドへ倒れるシーンから始まり、お互いを手と口で愛撫してから、後ろから竜介に脚を開かされて強制オナニーをする。イく手前で止めて、その後いよいよ本番の絡みシーンだ。  ――頑張れ、俺。

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