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 右からバン、バン、バン、ときて、ヒョコッ。そしてまた、バン。  ブレイズメンバーの立ち位置はもうそんな感じで決まってしまっている。ポスターを見るたびに遣る瀬無くなるけど、どう足掻いても身長は伸びないのだから仕方ない。 「別にいいじゃん。一人くらい背が低くっても。男は愛嬌、愛嬌」  独り言のように呟き、会議室のドアを開けた。今日はここで獅琉と待ち合わせだ。午前中にお互い撮影が入っていて、終わってから買い物をして帰ることになっている。 「そうだ、こないだの動画の続きが確かもうアップされたって……」  取り出したスマホでインヘルのサイトを見ようとしたその時、ドアが開いて山野さんが入ってきた。 「あ、お疲れ様です」 「亜利馬か。バドミントン動画の後半が公開になったぞ」 「はい。今から見ようと思ってて」  すると山野さんがテーブルにパソコンを置き、既に再生待ちになっていた動画を俺に見せてくれた。 「た、楽しみ……でも緊張」 『獅琉様の痺れるような甘い声を毎晩イヤホンで聞いています。ぜひ添い寝動画を出して欲しいです。有料でも買います』 『ブレイズのヌード写真集とかは出さないの? 皆カッコ良いんだから絶対売れると思う。亜利馬は、まぁ、……カッコいいより可愛い系っていうのかね』 『この新人くんは何でブレイズに入ったのかな』 「………」  数々のコメントを目にしながら、俺は格差社会の厳しさをしみじみと感じていた。 「そんなに落ち込むな。お前のファンだってちゃんといる」 「山野さん。俺って本当に、ブレイズにいてもいいんですかね。だって俺より人気のモデルさんはいっぱいいるのに、どうして俺が……」  俺の正面でブラックの缶コーヒーに口を付けていた山野さんが、それをテーブルに置いて言った。 「お前に、光るものを感じたからだ」 「え?」 「情けない姿を晒そうが、背が低かろうが、バラエティ要員だろうが、本番の撮影になるとお前は誰よりも素直に体を開く。扱いやすいという意味ではないぞ」 「そ、そうですか? 俺、自分じゃ全然……」 「見ている側にはそう伝わる。普段の子供っぽさが印象にある分、本番でのエロさが際立つんだ。そこに惚れ込むファンはこれからどんどん増えて行くだろう。口には出していないが、二階堂さんも今井さんもお前のそんな部分に期待している」  ……知らなかったし、考えたこともなかった。  ポカンと口を開けた俺に向かって、山野さんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。 「いわゆる、ギャップ萌えというやつだな。……若い奴らの言葉はあまり使いたくないが」 「……ギャップ」  それの活用法はまだよく分からないけれど、少しでも道が見えれば俺も自信が持てるようになるだろうか。 「お前もブレイズも、まだ始まったばかりだろう。これからどうにでもなる。自信を持て」  山野さんがパソコンを閉じ、脇に抱えて会議室のドアへと向かう。 「そういえば亜利馬、動画班がこれからも定期的に撮りたいと言っていたぞ。お前がメインのシリーズも考えているそうだ」 「え? そ、それって……」 「『ギャップ』を見せるチャンスだな。どう利用するかはお前次第だ」  ドアが閉まって一人になってからも、俺はしばらく自分の在り方について考えていた。  まだデビューしたてでよく知られていないうちに考えないといけないことだ。別にバラエティ要員が嫌なわけじゃない。ただ俺が普段の俺でいることで、またそれを見られることで、ブレイズの価値を下げてしまうのでは――そう思うと、怖かった。  * 「お、いいね亜利馬くん。もう少しお尻上げてみよう」  床に肘と膝をついたまま背中をしならせ、腰を上げる。顔は斜め下に向けて視線は上目にカメラを見つめ、口角を少しだけ上げて笑う。シャッターが切られる度に瞬きをしたり唇を少し開いたりしながら、俺は自分の中にある「新人亜利馬」のキャラクターを体外に押し出そうと奮闘していた。  普段の俺とのギャップを出すなら、エロい時はとことんエロくするのみだ。今日の写真撮影だってパンツは穿いてもいいと言われたけど、自分から敢えての全裸で撮ってもらうようお願いした。下半身が映らないように木下さんに気を遣わせるかなと思ったけれど、逆に木下さんは大喜びだった。「そういう前向きな提案は大歓迎だよ!」と肩を叩いてくれたのだ。 「次は仰向けになって、右脚だけ開いてみようか」 「股間写りません?」 「左手で隠してもいいよ。そのパターンと、隠さないで写らないぎりぎりのパターンと、色々撮ってみよう。えーと、誰か霧吹きお願い」  アシスタントさんが飛んできて、俺の体にせっせと霧吹きをかける。疑似汗だ。  その状態でマットレスに仰向けになった俺は、言われた通り右の膝を折って大きく股を開き、左手をその部分に被せた。片手で隠れてしまうのだから、我ながら情けない。 「切ない顔、目線でちょうだい」 「イッた時の顔で」 「舌出して誘ってみて」  顔の筋肉が引きつるほど幾つもの表情を撮られ、体勢も段々きつくなってきた。その状態で今度は両脚を開くよう言われて、筋肉痛覚悟で左脚も持ち上げる。 「ああ、いいね。凄く色っぽいし顔もエッチになってきた」 「ほ、ほんとですか……」  辛さが顔に出ているということだろうか。それがエロいと言うなら、多少は辛いままでもいいけれど……。 「お待たせ。潤歩くん、お願いします」  ガウンを着て待たされていた潤歩が、苛々した様子で俺に舌打ちする。 「てきぱきやれや、待たせやがって」 「や、やってます! ……つもりです」  まぁまぁと言って、木下さんが俺の横に潤歩を座らせる。ちなみに潤歩は黒のボクサーを穿いていて、そのタイミングで俺もパンツを穿かされた。木下さんの頭の中にある「潤歩と亜利馬」の構図をそのまま撮るためだ。 「じゃ、後ろから亜利馬くんを抱きしめて。二人ともキメ顔」  座った状態で背後の潤歩に抱きしめられ、指示通りの顔でカメラを見上げる。何枚か撮られた後で今度は俺が潤歩を振り返り、少しだけ唇を合わせた。 「鼻血出すんじゃねえぞ」  潤歩が呟き、 「そっちこそです」  俺も生意気に言い返す。 「じゃあ次は真横から撮るよ。対面座位で亜利馬くん上乗って」  よっせ、と腰を上げ、あぐらをかいた潤歩の上に向かい合って座る。至近距離でこの鋭い目に見られるのが苦手で、そのままつい俯いてしまった。 「じゃあ、そのまま思うようにフリーで絡んでね」 「………」  潤歩が木下さんには聞こえないように舌打ちして、俺の背中を強く引き寄せた。 「わっ」 「いいね」  潤歩が俺の乳首を一回舐める間に何回シャッターが切られただろう。 「オラ、もっと脚開いて座れ」 「ひゃっ、……!」  胸に口を付けたまま突然パンツの中へ手を突っ込まれ、反射的に俺は潤歩の顔面を押し返してしまった。 「ってぇな、コラ!」 「ていうか、そんないきなりっ……やるならやるって言ってくださいよっ」 「うるせえ」 「んあぁっ――!」  パンツの中でぎゅっと握られ、喉から悲鳴が迸る。慌てるアシスタントさん。周囲では笑い声。 「もげかけたじゃないですかっ!」 「一回もげろお前は」  そんな姿もばっちり撮られ、またしても俺はお笑い要員としての一歩を踏み出してしまった気がした。

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