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 十二畳半の部屋で畳の感触を楽しみながら転がっていると、潤歩がふざけて俺の尻に腰を打ち付けてきた。 「オラ、ケツ出せ小僧!」 「やめてくださいっ!」  ジーンズ越しにバンバンされて慌てる俺を見ても、獅琉と竜介は笑っているだけだ。しかも俺自身も条件反射というか、無意識のうちにうつぶせていた体を四つん這いにしてしまう。 「や、やめてぇ!」 「いいぞ、もっと鳴け」 「ちょっと潤歩さんっ、ほんとに……!」  瞬間、部屋の襖が勢いよく開かれた。 「………」  現れた山野さんが、俺と潤歩を冷ややかに見下ろしている。 「あ、山野さん違いますこれは……」 「……獅琉。潤歩、竜介。準備するからユージの部屋に移動しろ。亜利馬と大雅はまだ待機だ」  完全に無視され、潤歩も少しバツが悪そうな顔で俺から離れた。  今日の撮影は前半に獅琉達三人、後半に俺と大雅。大雅とは一度セックスしたけれど撮影で絡むのは初めてだから、何だか新鮮な気分だった。  できれば前半組の撮影も見たかったけど、俺の鼻血で温泉を血の池地獄にするわけにはいかないから大人しく待機だ。あの三人が絡むなんて、凄く贅沢な――ボリューム満点のVになりそうだと想像してしまうけれど。 「んん……まだ?」 「あ、大雅起きたんだ。今、獅琉さん達が準備しに行ったよ」 「……じゃ、もう少し寝てる」 「大雅。俺、旅館の中ちょっと散歩してきていい?」 「いいよ……」  早速部屋を出て廊下を歩いていると、機材を持ったスタッフさん達とすれ違った。色々な作品で使われている旅館だから、これからAVの撮影が行なわれると分かる人には分かるだろうなと思う。  お土産売り場の正面は広いラウンジになっていた。ソファとテーブルが沢山並んでいて、コーヒーとお茶も飲み放題らしい。見ればおじいさんおばあさんが何人かいて、将棋を打ちながら皆でお茶を飲んでいた。  俺も一杯だけホットコーヒーを飲み、お土産売り場を見て回って、大浴場をちょっとだけ覗き、庭に出ようと思ったけれどまだ雨が降っていたから諦めた。  獅琉達の撮影が終わるまで時間はあるし、まだお菓子は食べられないし、外にも出られない。何となく旅館のあちこちをスマホで撮りながら歩いていると、ふと潤歩の言った言葉を思い出した。  白装束のモデル。  考えてみれば滑稽な話だ。女の霊とか子供の霊とかはよくあるけれど、ゲイビモデルの霊なんて聞いたことがない。  忍び笑いをしながら部屋に戻り、一応寝ている大雅の姿も撮っておいた。  テレビをつけて眺めてみたけれど、平日の昼前にやっているのは殆どが情報番組ですぐに飽きてしまい、結局俺も横になってスマホを見ているうちに眠ってしまった。  それからどのくらい経っただろう。 「亜利馬。起きろ、亜利馬」 「ん……」  薄らと開いた視界に山野さんの顔が映った。仰向けで寝ている俺の顔を覗き込んでいるようで、一瞬意味が分からなかったけれどそうだ、撮影があるんだった。 「お、おはようございます!」  飛び起きて涎を拭き、大雅を起こそうと部屋の中を見回す。 「あ、あれ? 大雅は」 「もう行ったぞ」 「起こしてくれればよかったのに……」  慌てて支度を済ませてから山野さんと部屋を出て、俺達は撮影場所の露天風呂へと向かった。 「わ! 凄い……!」  撮影用というから一般用と比べて古かったり狭かったりするのかなと思ったけれど、全くそんなことはない。むしろ全てにおいて綺麗で景色も良く、風呂自体も広くてかなり豪華だ。 「普通に入りたいなぁ……」 「撮影が終わったらゆっくりしてくれ。今は急げ」  脱衣所で服を脱ぎ、全裸のまま外へ飛び出す。雨も止み雲間からは陽も差していて、何とも言えない解放感に心底から身震いしてしまった。 「亜利馬、寝坊」 「起こしてくれても良かったじゃん!」  大雅は既に体を洗い終わっているらしく、のんびりと湯に浸かっていた。 「寝起きの風呂、気持ちいい……」 「確かにね。空気がちょっと冷えてるから尚更いいよね」 「亜利馬、喋ってないで早く洗え」 「はいっ!」  機材もセットされていて、カメラマンさんもいつでもOKの合図を出している。風呂場なのに俺達以外は服を着ているというのが違和感だけど、気にしている暇はない。 「洗いました! 行けます!」  大雅と並んで湯に浸かり、開始の合図を待つ。皆がお喋りを止めて静まり返った露天風呂には、お湯の流れる音だけが響いていた。 「スタート!」 「………」  今回はドラマ風でも何でもなく、オーソドックスな絡み撮影だ。俺と大雅は黙ったまま見つめ合い、心の中で五秒数えてからキスをした。 「ん……」  舌を絡ませ、唇を啄む。角度を変えながら何度もキスをして、しばらくしてから大雅が俺の首へと唇を移動させた。  静寂の現場にはお湯の音と俺達の息遣い、それからビデオ撮影と同時に別のカメラでシャッターが切られる音とが響いている。いつの間にか陽射しは暖かく、太陽の光に照らされた湯面は金色に輝いていた。  獅琉達が行なった小雨の中での撮影も何となく色っぽくて絵になると思うけど、やっぱり、せっかくの露天風呂なんだから晴れていた方がいい。 「……亜利馬」  大雅が名前を呼んで合図し、俺は湯槽の中で少し体を伸ばした。鳩尾くらいまでお湯から出した俺を背後から大雅が抱きしめて、乳首を弄られながら首筋にキスの愛撫を受ける。 「た、大雅……」  首を曲げて見た大雅の目は鋭くて、同時に、息を呑むほど綺麗だった。普段寝てばかりなのに撮影になると顔付きがガラッと変わる大雅もまた、ある意味では彼にしかない「ギャップ」を持っているのだ。 「ん、んぁ……熱い、……気持ちいい……」 「亜利馬。そこ、座って」  時間をかけて上半身を愛撫してから、大雅が俺を石造りの浴槽縁へと座らせた。 「――んっ!」  開いた膝の間に大雅が頭を入れ、俺のそれをゆっくりと口に含む。お湯も熱いけど大雅の口の中はもっと熱い。野外という開放感もあって、俺は大袈裟に声をあげてしまった。 「はぁっ、あぁ……大雅っ、そんな、強く吸った、ら……!」 「亜利馬の体、全部柔らかくなってる」  声だけは普段と変わらない。いつもの抑揚のない声――だからこそ、「普段の大雅」とこうしている気持ちになる。 「やっ、……大雅、そこ……!」 「なに」  今では大股開きになっている俺の、この後大雅のそれを受け入れる予定の所を舌で解すように舐められる。焦れったい刺激に腰が疼き、喉を反らせて仰いだ空がじわりと潤んだ。 「柔らかい」 「は、ぁ……」 「ここに俺の、挿れたら……気持ち良さそう」  大雅がその場で立ち上がり、俺の腕を引く。 「手伝って、亜利馬」  俺はのろのろと湯槽に入り、大雅の前で膝をついた。  そのまま、緩く屹立している大雅のそれを口いっぱいに頬張る。 「ん、んんっ……ん、は……」 「上手くなったね」  頭を撫でられ、台本通りだと分かっていても嬉しかった。  熱い湯気のたつ露天風呂。緑豊かな自然と、硫黄の匂い。大雅の濡れた白い肌、上記した頬……こんな贅沢、他にあんまりない。 「ん、っ……」  体液の糸を残しながら大雅のそれを口から抜き、この先をねだるように上目で見つめる。 「……手、付いて。お尻向けて」 「う、うん」  両手を浴槽縁について体を支え、腰を大雅の方へと突き出す。その状態でしばし放置だ。大雅はスタッフに渡されたスキンを着けながら「のぼせそう」と呟いている。

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