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バスタブの前に獅琉と向かい合って立ち、「待ってたよ」と台詞を言う。今回はドラマ仕立てになっていて、設定はソープで働く俺と常連の獅琉、というものだ。こんなファンシーな店なんて絶対にないけど、一応このセットは店の風呂場ということである。
「会いたかった、亜利馬」
「俺も」
撮影用ガウンを着たままの獅琉と情熱的に抱き合い、唇に軽くキスをした。俺は始めから白い競泳パンツ一枚という恰好で、動くたび尻が食い込んで股がむずむずしてしまう。
獅琉のガウンを丁寧に脱がし、そのまま床に置く。アシスタントさんがタイミングを見てガウンを回収する。俺達はもう一度キスをして、今度は舌を絡ませ合った。
「一緒に入ろう」
泡がなくならないうちにバスタブの中へと獅琉を導き、そこでまた俺から獅琉の唇を塞いだ。柑橘系の良い匂い――風呂好きな獅琉のリクエストによる、オレンジを使ったバブルバス。泡でお湯の中は見えないけど、俺達はお互いの体を触り合って気分を高めながら、イチャついている様子を表現した。
「んっ、……」
「相変わらず、お尻柔らかいね」
「……その揉み方、エロくてちょっと恥ずかしいなぁ」
獅琉の囁きに笑って返し、首にキスをする。ぴったりと密着して時折「あん」と作った声を出しながら、俺は獅琉の滑らかな白い胸元に頬ずりを繰り返した。いい匂いで、温かくて、心地好い。優しく抱きしめられれば更にとろけそうになる。片手で取った泡を頭の上に乗せられて、お返しに俺も小さな泡を獅琉の鼻先に指でくっつけた。
「亜利馬、いい匂いがする」
体を少し倒して、今まさに俺が触れた鼻先で俺の首筋をくすぐる獅琉。その頭を撫でながらくすくすと笑う俺。今回は絡みの前を思いっ切り甘くすることで、絡み本番のちょっとコアな部分を緩和させる作戦だ。そのせいで俺の心臓は破裂しそうなほど高鳴っているけど、「甘さ」を出させたらインヘル1の獅琉が相手なら、たまにはこういうのも悪くないな……と思ってしまう。
「立てる?」
「……ん」
お湯の中で立ち上がり、バスタブの縁に座らせられる。膝立ちになった獅琉が俺の首や耳の付け根を舐めながら、伸ばした指先で俺の唇をなぞった。
「あ……」
唇が割られ、入ってきた獅琉の指を舌で愛撫する――苦いかなと思っていた泡は何の味もしなかった。そう言えばアシスタントさんが、口に入れても害のない泡だとか言っていたっけ。
しばらくの間唾液と舌を獅琉の指に絡めていると、獅琉が俺の口から指を抜き、変わりに激しいキスをされた。
弾む息、濃厚に絡む舌。さっきまで舐めていた獅琉の指がゆっくりと下りてゆき、俺の乳首を軽く転がす。その刺激に腰がビクリと跳ね、俺は獅琉とキスをしながら半分閉じかけた目を潤ませた。
「亜利馬。……ここにも、キスしていい?」
獅琉が俺の乳首を弄りながら囁く。
「う、ん……。して、欲しい……」
胸元に唇を寄せた獅琉の頭を片手で抱きしめ、俺は眉根を寄せて天井を仰いだ。右の乳首に被せられた獅琉の唇。その中で舌が動くたび、体中が痺れるような甘い刺激が走る。
「はぁっ、……あ……、気持ちいい……獅琉、さん……」
「可愛いよ亜利馬。すっごく硬くなってる……」
乳首を愛撫する唇はそのまま、右手で泡をすくった獅琉が、俺の体にそれを塗り付ける。左側の乳首に脇腹、太腿――そして、獅琉の手に促されて脚を開いた俺の、内股に。
「やっ、あ……、あ、っん……」
触れられるたびに体が疼いて、それこそ泡の弾けるような声が出てしまう。
最後に俺の股間をパンツ越しに撫でながら、獅琉が嬉しそうに囁いた。
「ここも大きくなってる。……出しちゃうね」
「あ――」
獅琉の人差し指が、パンツのゴム部分を軽く引っ張った。そのまま下へずるりと下げられ、緩く勃起した俺のペニスが露出する。
――ここからが本番だ。
「亜利馬の可愛いココ、もっと可愛くしてもいい?」
バスタブ横の棚から、獅琉がT字カミソリとシェービングクリームを取って言った。
「……ん。……う、ん……」
元々薄い俺のそこに、獅琉がたっぷりとクリームを塗り込む。ついでに柔らかい毛をくしゅくしゅと揉まれて、頬がかっと熱くなった。
「じっとしててね亜利馬。……それと」
「獅琉、さん……」
「亜利馬のおちんちんの毛が剃られてくとこ、ちゃんと見ててね」
唇を噛み、俺の股の間で楽しそうに笑う獅琉の顔を見下ろす。カミソリの刃があてられた瞬間は、思わずきつく目を閉じてしまった。
「ふ、ぅ……」
小さく呼吸をしながらゆっくりと目を開け、獅琉の手を見つめる。カメラが獅琉の背中側から覗き込むように俺のそこを映し、それから、羞恥に赤くなった俺の顔をも舐めるように映していった。
ピンク色の壁紙、天井。俺の頭の中もピンク色だ。獅琉が俺の半勃ちになったそれを傷付けないよう指で押さえ、そうしながら着実に俺の陰毛を剃ってゆく。それは何ともいえない感覚だった。決して気持ちいい訳じゃないのに、何故か体が熱を持つ……。
「はい、終わり!」
カミソリを元の棚に戻して、獅琉が今度はシャワーを掴む。温めのシャワーで処理したヘアとシェービングクリームが湯槽の中へ流され、何も生えていない子供みたいな俺のそこがあらわになった。
「は、ずかし……」
「恥ずかしいね、亜利馬。もう十八歳なのに、つるつるになっちゃったね」
「あ、……あ」
開きっぱなしの内股が震える。その震えがペニスにも伝わる。更に恥ずかしくなって、俺は真っ赤になった顔を片手で隠した。
「でも、何もなくなって逆にすっきりしたでしょ?」
「う……、うん……何となく」
「……それじゃ、洗って。亜利馬」
シャワーを戻した獅琉が洗い場に移動し、用意されていたバススツールへ腰を下ろす。俺はもたもたと脚を戻してパンツを脱ぎ、バスタブから上がった。企画を聞いた時は「大したことない」と思っていたのに、まさかこんなに恥ずかしくて……ドキドキしてしまうなんて。
「し、失礼します……」
「うん、お願い」
シャワーを使って獅琉の体をざっと流し、それを止めてからボディソープを手のひらに出す。そうして床の上に膝で立ち、ゆっくりと、マッサージをするように獅琉の背中を手のひらで洗う。
「痛くないですか」
「気持ちいいよ」
「……ん」
俺は意を決して、獅琉の背中に抱き付いた。美しいのに逞しい獅琉の背中。そこに自分の体を密着させ、バブルバスとは違うぬるぬるとした泡を擦り付ける。乳首が擦れる感覚が気持ち良くて、俺の方がぼんやりしてしまいそうだ。
「獅琉、さん……背中、温かい……」
「俺も。亜利馬、洗うの上手だね。別のところも洗ってもらおうかな?」
座ったままで獅琉が右手を横に伸ばした。
「どうやって洗うかは分かるよね」
「……は、はい……」
その手を握り、跨いで、――獅琉の腕にペニスを押し付け、腰を前後させる。
「ふ、あっ、……あぁ……」
これが想像以上に気持ち良くて、喘ぐ口元から涎が垂れた。剃毛したばかりの妙な解放感と気持ちの高ぶりから、必要以上に押し付けてしまう。ペニスの上面、裏側、それから二つの膨らみで……何だか獅琉の腕を穢しているような、凄くいけないことをしているような気分になる。
「亜利馬の柔らかいおちんちん、凄く気持ち良いよ。……夢中でお尻振って擦り付けて、エッチだね亜利馬」
「や、やです……獅琉さ、ん……言わないで……」
「何で? 可愛いのに。今度は反対の腕も洗ってよ。顔こっち向けて。俺にヤラシイ顔見せながら同じことして?」
「ん、んゃ……」
のろのろと場所を移動し、再び、今度は獅琉の左腕に跨る恰好になる。目が合った瞬間、俺の中で変な震えが起きた。普段は優しい獅琉の笑顔が、物凄く妖艶なものになっていたからだ。
「やって、亜利馬」
怖いほど美しく、鋭い微笑み。これが撮影でなくても、こんなふうに命令されたらきっと誰も逆らえない。
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