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第1話
「桃太郎さん、聞いてくださいよ! この間また鬼が現れて今度は隣の家が壊されちまったよ」
「またか!? 怪我は無いだろうか?」
「咄嗟に避難したから大丈夫さあ。だが金目のモンが全部盗られた。今は俺ん家に泊めてるけどこっちもいっぱいいっぱいだ。何か食うもんでもありゃあ分けてくんねえかい?」
「今は手持ちが無いが……ちょっとお婆さんに相談してみよう」
桃太郎がそう言うと話しかけた男__猿川は「ありがてえ。あんたも気を付けてくれよ」と手を合わせた。
「なに、困った時はお互い様さ。気にする事はない」
猿川は同じ事を他の村人に伝えるつもりだろう。一度会釈をしてから早足でその場を立ち去った。
「……また鬼か」
この村で鬼が出る。その噂は桃太郎が幼い頃からあった。だが実際に鬼か出るようになったのは1年前くらいからだ。特にここひと月は頻繁に被害が出るようになった。辛うじて死人は出ていないものの、怪我を負った者も少なくない。
「いっちょ懲らしめてやろうか」
このままでは明日は我が身かもしれない。自分だけならまだしも、お爺さんとお婆さんは逃げ遅れるかもしれない。小さな怪我が命取りかもしれない。大事な人達に被害が出る前に鬼を退治してやろう。桃太郎はそう決心し、お爺さんとお婆さんが待つ家に帰った。
「__そんな訳で、何か食べる物を用意していただけないでしょうか? そして鬼ヶ島へ行って鬼を懲らしめてやろうと思っています」
「猿川さんのお宅にはこの間取れた野菜を持って行くと良い。だけど鬼ヶ島に行くのは賛成できないねえ。あんたが危なくなるじゃないか」
「ですが……このままでは村の被害がもっと増えてしまうかもしれません。もしかしたらこの家に来てしまうかもしれません。そうなってからでは遅いのです」
桃太郎が説得しても、お婆さんは中々許してくれそうにない。無理もない。実子のない夫婦が天から授かった、ただ一人の息子なのだから。それでも桃太郎は諦めず、鬼がどれだけの悪さをしているのか、そして2人のお陰で自分はどれだけ強くなれたのかを何度も何度もお婆さんに伝え続けた。
「だからと言って、わざわざそこまで行くのは……大事なあんたが死んだらあたしゃこの先生きていかれないよ」
「もう良いだろう婆さん。男にはな、やらなきゃならん時があるんだ。桃太郎がやると言ってるんだから行かせてやれ」
ずっとお婆さんの隣で黙って見ていたお爺さんがぼそぼそとした声でそう言った。お婆さんが驚いた様子でお爺さんを見る。
「あんた……」
「お爺さん……ありがとうございます」
座ったまま桃太郎は額が床に付くほど深く頭を下げる。お婆さんはそれ以上何も言わなかった。
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