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第2話

 翌々日、桃太郎はお爺さんが村人から譲ってもらった刀を腰に携え、鬼ヶ島へ向かう事になった。 「それでは、お爺さん、お婆さん、行って参ります」 「ああ桃太郎や……無事に帰ってくるんだよ。きっと帰ってくるんだよ」 「ええ。必ずや鬼から今まで奪われた物を取り返して無事ここに戻ると約束します」 「ほら、これを持って行きなさい。気休めにしかならんだろうが、お腹が空いたら食べるんだよ」  そう言ってお婆さんは桃太郎にきび団子が入った袋を手渡す。そしてどうか……どうか無事でいてくれとお婆さんは両手で桃太郎の手を握り続けた。お爺さんは無言で震えるお婆さんの肩を抱く。 「行って参ります!」  桃太郎はお婆さんの手をそっと下ろし、家を出ていった。   「桃太郎さん昨日は新鮮な野菜をありがとうございました」  途中で鬼の被害で猿川の家に下宿している男__犬山が声を掛けてきた。 「犬山か。怪我がなくて良かった。この時期は裏の畑でよく採れるんだ。足りなかったらまた持っていこう」 「本当にありがとうございます。貴方に伝えてくださった猿川にも感謝しています。お陰であと1週間程は飯に困らなさそうですよ。ところで、その腰の刀と袋は何ですか?」  犬山は何度も頭を下げたが、途中で桃太郎が持つ刀ときび団子を見て首を傾げた。 「これから鬼ヶ島に鬼退治に行くんだ。こっちは食料。お婆さんお手製のきび団子さ」 「美味しそうですね……私もお供しますから、お1ついただけませんか?」 「着いてきてくれるのなら心強い。1つ差し上げよう」  桃太郎は犬山にきび団子を1つ渡した。犬山はそれはそれは嬉しそうに一口齧る。 「ああ美味しい。そうだ、猿川も誘ってみましょう。こんなに美味しいきび団子をいただけるならきっと着いてきてくれますよ」  犬山は最後の一口を飲み込み、名残惜しそうに指を舐めながら桃太郎に提案した。 「それはありがたいが、何せ行き先は鬼ヶ島だ」 「んん? 犬山と桃太郎さんでねえか。こんなとこで何話してんだい?」  丁度良いタイミングで、斧を持った猿川が桃太郎達の元にやってきた。犬山が猿川に今までの話を簡単に説明する。 「ははあ、そんなに美味えきび団子があるならいっぺん食ってみてえなあ。それに犬山が鬼ヶ島に行くんなら俺が留守番してるわけにはいかん。俺も一緒に連れてってくれ」 「あ……ありがとう」  桃太郎は猿川の鬼気迫る気迫に仰け反りながらもきび団子を渡した。横で犬山が「全く、心配性なんですから」と笑っている。 「んで、桃太郎さんよ。鬼ヶ島ってのは海を渡った先にあるんだろ? どうやって行くおつもりですか?」 「それなら漁師をやってる雉田に船を借りようかと思っていたところだ」 「快く貸していただけるでしょうか?」 「さて、どうだろうな」  そう話しているうちに、3人は雉田の家に着いた。桃太郎が家の戸を叩くと、雉田は眠そうな目を擦りながら出てくる。 「どちら様〜? あれま、猿川に犬山に桃太郎さんじゃないか。珍しい3人組が来たものだ。何か用かい?」 「こんにちは。これから鬼ヶ島へ行くんだが、その為の船を貸してもらいたくてね」 「はあ? 鬼ヶ島? 桃太郎さんあなた死にたいのか?」 「まさか。そんな訳なかろう。鬼を退治しに行くんだよ。その為の船を貸してくれないか?」  雉田はあんぐりと口を開けて目を瞬かせた。そして桃太郎より一歩後ろにいる猿川と犬山を見る。 「まさか君らも一緒に行くのかい?」 「ええ。美味しいきび団子をいただいたもので」  犬山の返事に、あんぐりと開けた口を閉じた雉田はフンと鼻を鳴らした。 「たかが団子1つで釣られるとは犬山らしいな」 「雉田! 貴様犬山の悪口は許さんぞ!」 「とっても美味しかったですよ。この世で1番絶品なお団子でした。雉田さんも1ついただいては如何ですか?」 「いや要らん。船は貸すから勝手にやってくれ。僕はあんなおっかない所は行かないよ」  雉田は「着いて来い」と言って海岸の方へ歩き出す。そこに所有している船が何隻か停まっている筈だ。 「3人なら1番小さいやつでいいかい?」 「ああ、ありがとう」 「ところで、誰が操縦できるんだ?」  雉田にそう問われ、桃太郎は猿川と犬山を振り返った。桃太郎と目が合った2人はぶんぶんと首を横に振る。3人の様子に雉田は盛大な溜め息をついた。 「分かった。僕が操縦するから。だけど戦いやしないよ。島の入り口までだからね」 「良いのか?」 「このまま船だけ貸したらこの船が無事に帰って来ないだろうよ。大事な船を失うのは御免だから」  雉田は再び大きな溜め息をつく。桃太郎の後ろで犬山は申し訳無さそうに肩を竦めた。桃太郎は満面の笑みで雉田にきび団子を手渡して言う。 「すまないな。お礼にきび団子を差し上げよう」 「つまり鬼退治にまで着いて来いと?」 「そこまで来てくれるなら一緒に行かないか? 1人で船に留守番だなんてそれこそ危ないだろう?」  本気で心配しているような桃太郎の言葉に雉田は腕を組んで暫く考えた。 「それもそうか」 「よっしゃ! 一緒に行こうぜ鬼退治!」  猿川が逃がすまいと雉田の腕を掴んで船に乗り込む。雉田の顔に「やっぱり言うんじゃなかった」と書いてあったのが見えたが、犬山は気づかないフリをして猿川の後に続いて船に乗った。 「それでは、いざ! 鬼ヶ島に向かって出航!」  最後に船に乗った桃太郎の掛け声を合図に、船はしぶしぶ鬼ヶ島へと向かうのであった。

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