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第6話

――後日 「あれ、桃太郎さんじゃないですか。こんにちは」 「犬山、そろそろ家は直ったか? 木材なら余っているからまだ必要なら持ってこようかと思ってね」 「いいえ、もう十分いただいていますよ。それより__」  ふふ……と犬山は妖しく笑って桃太郎に近付いた。 「俺、貴方が欲しくなりました。食べてしまっても良いですか?」 「……は?」  犬山は桃太郎の腰を掴み、服に手をかけた。桃太郎は理解が追いつかず、されるがままに肌を撫でられ続けている。犬山の顔が目の前に広がった時、漸く我に返って犬山を突き飛ばした。 「あれま」 「なっ……にをするんだ!」 「残念。駄目ですか?」  もう一度桃太郎に口付けようと、犬山は桃太郎を抱きしめようと手を伸ばした。桃太郎は犬山の手を躱し、蹴りを喰らわせながら回避する。しかし桃太郎は壁際まで追い詰められ、そのまま両手首を掴まれた。 「おい、止めろ! そういうのは猿川としろよ」 「ええ、勿論しますよ? ですが貴方ともしても良いでしょう?」 「おい、何をやってんだ? あ?」  唇がギリギリ触れ合う手前で猿川が犬山の肩を掴んだ。額に浮かんでいる青筋は気のせいではないだろう。犬山は全く顔色を変えずに猿川の方を向いた。 「桃太郎さん、以前から美しい方だとは思っていましたが、やはり一度お相手願いたいと思いまして」 「断る!」  間髪入れずに猿川が拒絶した。桃太郎が口を挟む隙もない。だが猿川が間に入ってくれて良かったと桃太郎は思った。 「お前の恋人は俺だろうが! 何堂々と浮気しようとしてんだよ」 「別に浮気などではありませんよ? ちょっと味見するだけです」 「それを浮気っつうんじゃ馬鹿犬が!」  2人が言い争っている隙に桃太郎は心の中で猿川に感謝して静かにその場から立ち去った。  あれ以来、桃太郎が犬山と会う事は極端に減った。大抵は猿川に繋がれていたり、猿川を通してのやり取りばかりだった。彼ならば信頼できる。その認識が間違っていた事に気付くのは暫く後になってからだった。

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