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3杯目。

「…ところで朝夜君。」 パンプキンケーキに舌鼓を打っていると、にこにこ顔のお兄さんに話し掛けられた。 「…?なんですか?」 「明日は何月何日ですか?」 「…っと、10月31日です。」 「じゃあ明日は何の日でしょう?」 ヒントは今君の食べている物だよ。 あぁ成る程。かぼちゃか。 「…ハロウィン、ですか?」 「そうそう。それでね?当日にしようかと思ってたんだけど、明日は大学午後からで朝夜君うちの店に寄らないでしょ?」 「…?」 一体何が言いたいのか分からず、首を傾げミルクティーを一口。 紅茶は久々に飲んだが、柔らかい茶葉の匂いがケーキとよく合って美味しい。 「という事で朝夜君、」 「はい?」 「 trick or treat 」 拭いていた食器を置いたお兄さんが、すッ…と手をこちらに差し出した。 「…、え!あの えっと、お菓子…お菓子ですよね、」 急な出来事に わたわたする俺。 まさか自分が言われる側になるとは思っていなかった。 普段からそんなに食べないから、もちろんお菓子なんて持ち合わせていない。 鞄もポケットも見てみたが、出てきたのはキシリ○ール一粒だけだった。 「す、すみません…ガムしかないです……」 「うーん、ちょっとガムはお菓子とは認められないかな。」 「ですよね…ごめんなさい、お菓子無いです…」 俺が項垂れると、「ふふふ、ならイタズラだね。」なんて妙に楽しそうなお兄さん。 何やら棚をごそごそしだした背中を眺める。 「朝夜君、今度の連休さ、暇?」 「連休…ですか?」 「そう、三連休」 そう言って振り返ったお兄さんの手に細長い紙が二枚。 (チケット…?) その内の一枚を俺に差し出しながら「暇ならさ…」とお兄さんが口を開く。 「気分転換に、水族館…一緒に行きませんか?」 「え!」 「二人で、ドライブしようよ。」 俺を見つめて微笑むお兄さんに、心臓が一気に脈打ち出す。 「あっ…の、その、えっと…////」 「予定ある?なら別の日空けるけど…、それとも僕とは嫌?」 少し眉を下げたお兄さんが首を傾げる。 「い、嫌じゃ無い、です…その……」 「うん?」 「行きたい…です…////」 「ほんと?良かった。」 嬉しそうなその声に、俺は無性に恥ずかしくなった。 顔に熱が集まって来てお兄さんを見ることが出来ない。 (人、居なくて良かった…) 俯いて隠しているが、きっと今耳まで赤いに違いない。 もしかしたらお兄さんに見えているかも。 「あぁそうだ。日帰りだから、家に帰るの遅くなるけど大丈夫かな?」 「だ、大丈夫です…独り暮らしなので門限とかは特に…。」 俺は恥ずかしさを誤魔化したくて、ミルクティーの入ったカップを意味もなく手に持った。 (お兄さんと、二人でドライブ…) 改めて言葉を噛み締めると余計に恥ずかしさと嬉しさが込み上げてきて、その後 連絡先を交換して予定を立てている間も、俺は彼の顔を見られなかった。

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