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4杯目。

土曜日。朝の7時半。 俺は大学の最寄り駅へやって来ていた。 改札を出て目的の人物を探す。 しばらくキョロキョロ見回すと、駅の入り口から少し離れた所にスマホを弄る彼の姿があった。 途端、俺は柄にもなくテンションが上がってしまい、少し駆け足で彼に近づいた。 お兄さんが俺に気付いて声をかけてくれる。 「…!おはよう、朝夜君。」 「ぉ、おはよう…ございます…!」 (私服、初めてみた…格好良い…////) 深いワインレッドのセーターにチェックが薄く入った灰色のコーチジャケット 細身の黒いジーンズと足首丈の革靴を履いて、髪は珍しくハーフアップではなくセットされている。 お洒落。スタイルが良い。 まるでモデルみたいだ。 余りにも様になっているものだから、俺はつい見とれてしまった。 「朝早くにごめんね。近くのコンビニに車停めてあるから、そこまで…朝夜君?どうかした?」 「あっ、いえ!何でもないです…!」 「そ?じゃあ行こっか。ついでにコンビニで何か買っていこうよ。」 そう言って歩きだしたお兄さんに「はい。」と返事をして俺は後を付いていて行った。 ─「ごめん、片付けたんだけど、後ろはまだちょっと散らかってるんだ。助手席にどうぞ。」 「いえそんな…!し、失礼します…」 お兄さんが開けてくれたドアを潜る。 (顔がいい人はやっぱりやる事もイケメンなんだな…) 他人事の様に頭で考えていても、まるでマンガか何かの様なその動作にされたこちらが照れてしまって。 「…ふふ、緊張してる?」 「え!…と、す、少し…///」 恥ずかしい。彼にバレていたなんて…笑われてしまった… 顔が少し熱い…きっと赤くなっているのだろう。 「寛いでて大丈夫だよ。あ、シートベルトは危ないから締めててね。」 お兄さんに返事を返しながらシートベルトをしめる。 そしてふと衝撃的な事実に気付いてしまった。 (…あれ?よく考えたら俺、誰かと二人で出掛けるなんて…これが初めてなんじゃ…!?) 先程までは誘われた嬉しさで、二人きりだという事をすっかり忘れていた。 これから高速で二時間位かかるから、眠かったら寝てても良いよ。隣からお兄さんの声が聞こえてくる。 あれ、あれ?俺…どうやってお兄さんと話してたっけ…?? 今までだって二人だけの時もあったのに、いつもとは違うこの状況に俺の心臓は跳ね上がってしまった。 どうしよう、返事、何か返事しなきゃ…ッ 「…?どうしたの?もしかして具合悪い?」 「ッ!?…ンはっぁッ……/////」 ヒョコッ 急に視界に現れたお兄さんの顔。 思わず変な声が出そうになり慌てて口を押さえたが、遅かった。 自分でも今まで聞いたことのない奇声をあげてしまい、驚いた顔の彼。 あぁ~ッやってしまったぁ~ッ//// 「………、なに今の…可愛い。」 暫しの沈黙のあとクスリと破顔した彼のその言葉に、又も変な声が出そうになる。 「~~~ッ、わ、忘れてくださぃ……/////」 俺は口を押さえた両手でそのまま顔を隠した。 もう二人きりとかそれ所ではない。 顔は近いし変な声は出るしで、心臓はドクドクと今にも破裂しそうな音を出している。 「ふっ…真っ赤」 「っ、あ"ぁ"ぁ"ぁぁ………/////」 分かってます、分かってますんで、言わないで… 「ね…顔見せてよ。」 さっきより近くで楽しそうな声がする。 むりむりむり、無理ですお兄さん。 この壁を取ったら、今度こそ俺は心臓が破裂して死んでしまう。 「ね、お願い。朝夜君」 「~~~っ」 そんな声で名前を呼ばないで、曖昧だった感情が、誤魔化していた気持ちが、顔を出してしまいそうなんだ。 俺は伝え方なんて分からないのに…お願いだから気付かせないで。 そ…とお兄さんの手が俺の腕に触れる。 そしてゆっくりとした手つきで、必死に作っていた壁は取り外されてしまった。 「お願い…」 俯いて強く閉じていた瞼を恐る恐る開ける。 開けた視界に、ドアップのお兄さんが映った。 (あ……れ………、) 「……ふはっ…、やっぱり可愛い /////」 至近距離で見た彼の顔は、いつもの澄ましたお兄さんのものではなく、初めて見る照れた顔だった。 色白の彼の頬がほんのり朱色に染まって…あれ?何でお兄さんが照れてるの…? 赤い顔のままキョトンとする俺に、お兄さんが同じく赤い顔のまま困ったように笑う。 「…実を言うとね、僕も…緊張してたんだ。」 「…ぇ?」 「誰かを遊びに誘うなんて、しかもお客さんとなんて、初めてだったから…30にもなって浮かれてお洒落なんかして…。可笑しいでしょ?」 誘うときも、結構ドキドキしたんだよ?席に体を戻した彼は照れた様に肩を竦めた。 「良かった…来てくれて……」 お兄さんは顔を隠すように右手を口元に当て視線を反らした。 (なに…それ…、なにそれっ、可愛い…ッ////) あぁ、これは…これはダメだ…、 「ぉ、俺も…楽しみでした、今日…////」 チラリ 横目で盗み見たお兄さんは、正面を向いていてあまりよく顔が見えなかったが、ほんの少し、笑っていて。 「……嬉しい。////」 キュンッ あぁ…もう。 認めるしかない これは…、この感情は……、 恋だ。

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