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5杯目。

「うわぁ…海だ…!」 「綺麗だね…。」 高速を降りて30分程で俺たちは目的地に着いた。 休日でそれなりに人は多かったが、隣にお兄さんが居るというだけで然程気にはならなかった。 水族館を回っている間俺は興奮しっぱなしで、持参したカメラで写真を撮りまくっては 「お兄さん、入り口にシャチが…!」 「本当だ、大きいね。」 「お兄さん、ニモ、ニモの子供…!」 「…可愛いね。(ニモって子供の方じゃ…?)」 「ペンギンって足伸びるらしいですよ…ッ!」 「ちょっと気持ち悪いな…」 「と、とんだぁ…ッ!!」 「イルカってあんなに飛べるのか…!」 お兄さんお兄さんと、まるで小さな子供みたいにはしゃいだ。 「…資料になりそう?」 「はい、たくさん撮れました!」 「それは良かった。」 じゃあ次は、もっと絵になる所に行こうか。 粗方水族館を堪能し終えて、最後にお兄さんが近くにあるという海に連れてきてくれた。 (広い…初めて生でみた……ッ) どこまでも続く水面が揺れに合わせて夕日を反射し、景色がオレンジ色に染まる。 足元で静かに波が寄せては白っぽい泡を残して退いていった。 遠くに犬と駆けっこをする少年と散歩をする老夫婦が見えるが、近くに人はいない。 こんなに…こんなに綺麗なのか。 俺は夢中でその景色を見つめ、ふと、お兄さんに今日のお礼を言おうとして… 言葉が、出なかった。 振り返った先で、お兄さんが同じ様に俺を見つめていたから。 キラキラと、まるで海の水みたいに光を反射する彼の瞳が、あんまりにも綺麗で…。 「………好き…。」 気付いた時には口から零れ落ちていた。 あ、だめ。 まだ、自覚したばかりなのに…こんなに直ぐ彼に言ってしまうなんて どうしよう、イヤだ、嫌われるかもしれない (せっかく、折角仲良くなれたのに…ッ) 「…どうして、泣いてるの?」 まだ返事も聞いてないのに。反則だよ。 お兄さんの手が俺の頬に触れる。 「ご、ごめ、なさッ」 「何で謝るの、何も悪いことしてないでしょ?」 「だって俺ッ、男、なのに…ッ」 いきなりこんな事言って、泣いて、困らせてごめんなさい 男の癖に…、好きになって、ごめんなさい 嗚咽紛れに告げた言葉に、彼が溜め息を吐いた。 「ご、ごめ…「違うよ。」…」 「違うでしょ?」 何が…? 「好きになったのは僕なんだから、そんなに泣かないで…」 「…へ?」 両手の親指で目元を拭われ、言われた言葉を理解する。 好き?誰が…誰を? 「あーあ。僕が言おうと思ってたのに、先越されちゃったな。」 顔が近い。 ぼやけてよく見えない程の距離に、夕日のせいでなく顔が染まる。 あ、触れる… ちゅ。 小さな音と共に、唇が優しく触れて離れていった。 「僕もね…好きだよ。…自分に自信がないなら、僕が君の分も君を褒めてあげるから。」 だから僕の恋人になってよ。 「…ッ、俺…男ですよ?」 そうだね、僕も男だ。 「ひねくれてるし、」 でもそれは君が優しいから。 「俺なんかで、良いんですか…ッ」 「…君が良いのさ。」 静かな声が潮の香りと共に風に乗って消えていく。 またボロボロと涙を流す俺を、お兄さんは優しく抱き締めてくれた。 ゼロ距離のお兄さんは、ほんのり珈琲の香りがした。

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