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第3話 孤独か、孤高か
黒崎は今年の四月から、源氏ケ丘大学付属病院の外科で研修医として働いている。
この三カ月のあいだ、手術の助手、救急患者の治療、外来の診察、さらに自身のスキルを上げるための勉強、と睡眠時間をギリギリまで削ってやってきた。
こんなことくらいで、休んでいるわけにはいかない。
そのとき、更衣室のドアが開き、同期の研修医の山本が入ってきた。
「あ、黒崎、おまえ、今夜は帰宅組だっけ?」
黒崎が私服姿なのを見て、山本が人懐っこい笑顔で聞いてくる。
「ああ。おまえは当直か?」
「うん。川上 先生と一緒に」
川上とは先輩医師で、研修医の指導医師たちの一人でもある。
「がんばれよ、じゃな」
素っ気なく言って、さっさと更衣室を出ていく。
黒崎は痛みのことも、事故に遭ったことも誰にも話していなかった。
……話すほどのことでもないしな。
明日、レントゲン室に空きがあれば、自分で撮ってみよう。
そんなふうに片づけてしまうと、鈍く傷む左半身を無意識にかばうようにして、関係者用出入り口へ向かって歩き出した。
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