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第4話 指導医師の恋

「あいつ、腕はいいんだよな、愛想はないけど」  沢井は呟いた。 「また黒崎の話か? おまえ、この頃ほんっと、あいつの話ばっかしてるよな」  沢井の呟きを受けて、川上が半ばあきれたように応じた。  一日の診察が終わり、がらんとした広い待合室の長椅子に腰かけて、二人の外科医は話をしていた。  沢井はすでに帰り支度を済ませた私服姿、川上はこの日は当直に当たっているので、まだ白衣姿だ。 「天使のような顔してるくせに、ニコリとも笑わないんだからな。……まあ、そういうアンバランスさも魅力的だけど」  沢井は少しきつめの整った顔立ちを和ませて、微笑む。  川上は深々と溜息をついた。 「あいつが、おまえの好みのタイプっていうのは一目で分かるけど、研修医に手を出すのはやめたほうがいいって……」 「おまえまで、三月(みつき)先生みたいなこと言うなよ」  三月とは、二人の同僚で、沢井の元妻だった女性外科医だ。  二年前に短い結婚生活を終え、離婚した。二人のあいだには愛奈(あいな)という娘がいて、三月のほうが引き取っている。 「三月先生がそう言いたいのも分かるよ。おまえが黒崎を指導する立場だなんて、狼の前にウサギを差し出すみたいなもんだよ」 「失礼だな。運命だといってくれよ」  沢井は、きっぱりと言った。

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