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第11話 知らなかった感情
沢井の大きな手は、二度、三度と黒崎の髪を撫でる。
「……みんな心配してるぞ。研修医っていっても、おまえは即戦力だからな、欠けられるとさすがにキツイ」
「すいません……」
そのとき、沢井の胸ポケットのPHSが鳴った。
彼は短く応答してから、PHSを切ると、もう一度、黒崎の髪を撫でてから、
「あとでまた様子を見に来るから、大人しく寝てるんだぞ」
そんな言葉を残すと、部屋から出ていってしまった。
ベッドに一人残った黒崎は、今まで覚えたことのない感情に戸惑っていた。
さっき、沢井の大きな手で頭を撫でられているとき、なんだかすごく安心したというか、安らぎ? に似た気持ちを感じた。
胸が痛むのではなく、苦しいのでもなく、なんとも例えようのない感覚がして……。
黒崎は、自分の感情の正体が分からずに、ただ……戸惑っていた。
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