30 / 109

第30話 真意が知りたくて……

「そうかー? おまえ見てると、涼しげで、こっちまで涼しくなってくるよ」  そんなふうに言って笑う沢井のほうこそ、汗はかいておらず、端整な顔はどこまでも涼しげに見えた。  沢井の行きつけだという店は、バスで三駅のところにあるらしい。  バス停までの道を歩きながら、 「オレの隠れ家的な店でさ。他の誰も知らない。飲み仲間の川上でさえ連れて行ったことない店だよ」  そんなふうに沢井に言われて、胸が甘く……疼いた。 「……そんな店にオレを連れて行っていいんですか?」 「他の誰にも言うなよ」  沢井は切れ長の瞳を微笑ませて言う。  ……どうして、この人はこんなに優しい瞳でオレのことを見るんだろう……?  黒崎は、甘く疼く胸や解けない謎に溺れてしまいそうだった。  と、不意に沢井がぽつんと呟いた。 「おまえだから連れて行くんだよ」 「……え?」 「おまえだけだよ、黒崎」 「沢井先生……」  胸が張り裂けそうなくらい鼓動が速い。  沢井の言葉の真意が知りたかった。  でも、黒崎が言葉を探しているうちに、二人はバス停についてしまった。

ともだちにシェアしよう!