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第31話 触れ合う肩
黒崎は電車通勤のため、そのバスに乗るのは初めてだった。
車窓の向こうを見知らぬ景色が流れていく。
バスは混んでいたので、並んで立つ二人の肩が自然と触れ合う。
その感覚が、心地良いような、居心地が悪いような、どちらなのか黒崎にはよく分からなかった。
自分の心だっていうのに、どうしてこんなに不可解なんだろう……?
もういっそ途方に暮れる気持ちの黒崎だった。
三つ目の停留所で降りると、店はすぐそこだった。
小さな店で、よく気を付けていないと、そのまま通り過ぎてしまいそうな佇まいである。
居酒屋『画廊』、それが店の名前だった。
沢井がカラカラと軽い音を立てて扉を開け、中に入り、そのあとに黒崎も続く。
コップを磨いている店主と思われる男性が顔をあげた。
「いらっしゃい。……やあ、先生、久しぶりだね」
店主は沢井を認めると、破顔し、後ろにいる黒崎にも会釈を送ってきた。
外観通りそれほど広い店ではない。
カウンター席が五つとテーブル席が三つあるだけだ。
だが、黒崎は店内を見て、店の名前の意味を知った。
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