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第34話 お酒の力というもの
酔いは心のガードを緩ませる。
黒崎は酒には弱いようで、三十分も経つ頃には、彼の表情はほんの少し和らぎ、口数も少しずつだが、多くなっていった。
三日前の全快祝いを含め、今まで何回か病院仲間で飲む機会はあったが、黒崎はいつも欠席か、ウーロン茶しか飲まなかったので、酒に酔った彼を見るのは、あの病院では沢井が初めてということだ。そのことが沢井の心を高揚させる。
アルコールで頬をピンクに染め、瞳をいつもよりもさらに潤ませた黒崎は、文句なしに愛らしく、色っぽかった。
「そういえば、黒崎、さっきあそこにかかってる絵に見入ってたけど、なんか気に入ったのあったのか?」
沢井はふと思い出して聞いてみた。
「あ、はい。……って言いますか、子供の頃に飼っていた猫とそっくりな絵があったものですから……」
いつもの黒崎なら、「いえ、別に」で会話は終わっていたことだろうに、酔いの力とはすごいものである。
「へえ、おまえ、猫飼ってたんだ?」
彼をもっとしゃべらせたくて、沢井は質問を重ねた。
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