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第35話 思い出の猫

「はい。小学校に入ったばかりの頃だったかな……。まだ仔猫のときにうちの庭に迷い込んできて。すごく人懐っこい猫で、白と黒のぶちの猫だったんで、パンダって名前をつけて……」  黒崎は本当にかすかだが口元をほころばせて、思い出の猫の話を語る。  今まで見たことのない思い人の表情に、沢井は見惚れてしまう。 「でも、オレが中学生の頃に、病気で死んでしまって……」  大きな瞳に悲しげな色が浮かぶ。 「すごく悲しかったです。パンダはオレの家族そのものでしたから……」  遠い少年時代に心を飛ばしているのだろう、黒崎の目が虚空を見つめている。  だが、新しい客が大きな音を立てて扉を開け、入ってきた瞬間、ハッと我に返ったようだった。 「あ、すいません。なんか変な話をしてしまって……」 「オレはもっとおまえのそういう話、聞きたいけどな」  沢井が本音を言うと、 「え……?」  黒崎がきょとんとした。そんな顔もまたかわいい。 「……パンダか」  沢井は小さく呟いた。

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