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第36話 酔いの心地よさ

 店から出ると、暑さはいくらかマシになっていた。  黒崎が火照った顔を空に向けると、そこには少しだけ欠けた月が浮かんでいた。  沢井はまだ店の中で会計をしている。  生ビールに日本酒にウイスキーとアルコールに強い沢井と違い、黒崎は生ビールしか飲まなかったが、その分料理をたくさん食べた。  この店の料理はどれもとてもおいしくて、今まで食欲不振だった分も今夜で取り戻せたかもしれない。  酔いが沢井といる緊張を鈍麻させてくれたのも大きかったのだろう。  黒崎は普段ほとんどアルコールは飲まないが、たまには飲むのもいいものだな、と思い、そんなふうに思った自分に驚いてしまう。  でも、体はフワフワと心地より浮遊感……。クセにならないようにしなきゃな。  そんなことを考えていると、店の扉がカラカラと開き、沢井が出てきた。 「おまたせ」 「あ、今日は本当にありがとうございました。ごちそうさまでした……」  黒崎は深くお辞儀をした。  アルコールこそほとんど飲んでいないが、たくさん食べたので、「割り勘にしてください」と言ったのだが、「先輩の顔を立てるってことをしろ」と却下されてしまったのだ。 「……黒崎、これ」  頭を下げる黒崎に、沢井が紙袋を差し出した。

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