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第39話 不謹慎な言葉

 昔は獣医になるつもりだったという黒崎に、沢井が聞いてきた。 「それはやっぱり飼っていた猫を病気で亡くしたから?」 「はい。中学生の頃は絶対に将来は獣医になるって決めてました。……でもやっぱり獣医はオレには無理だって考え直して」 「どうして?」 「動物が死ぬところを見るのが耐えられないからです。パンダを亡くしてからも、何度か動物が死ぬところを見ました。車に撥ねられた猫や巣から落ちたヒナとか。獣医になったら、たくさんの動物の死に立ち会うことになるんだって思ったら……オレには無理だって、思って」 「それで人間の医者になったのか?」 「はい。まだ人間相手のほうが気が楽なんです。オレは」  黒崎は言ってしまってから後悔した。あまりにも不謹慎な言葉だと気づいたからだ。  動物が死ぬのは耐えられなくても、人間が死ぬのには耐えられる……身も蓋もない言い方をすれば、黒崎が口にしたのはそういうことで。例えそれが本音だったとしても、言っていいことと悪いことがある。 「すいません……」  酔いもさめた気持ちで黒崎が謝ると、沢井は大きな手をポンと黒崎の頭に置いた。

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