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第40話 どうして……
「謝ることないよ。そういう考え方があっても不思議じゃないし、それに、おまえは患者をおろそかにしているわけじゃないだろ? いつも一生懸命に治療に当たってるじゃないか」
沢井は頭の上に置いた手で、黒崎の髪をクシャクシャと乱した。
「おまえは優秀な外科医だよ、黒崎」
そんなふうに言われて、黒崎は泣きそうな気持ちになった。
また謎の感情が込み上げてくる。
……沢井先生はどうしてこんなにオレに優しくしてくれるんだろう?
どうしてオレはこんな……自分でも不可解な感情を沢井先生に感じるんだろう?
K線の駅に着いて、二人は同じホームへと上がる。
偶然にも乗る電車も一緒だったのだ。ただし、沢井は五つ目の駅で降りるが、黒崎はもっとずっと先の駅で降りるのだが。
黒崎の酔いは完全にさめて、沢井と二人で電車に揺られていると、緊張のような高揚のような、どちらか分からない気持ちが復活してしまった。
沢井が降りる駅が近づく。
黒崎は改めて沢井に礼を言った。
「今日は本当にいろいろありがとうございました」
「オレのほうこそ楽しかったよ。ありがとうな」
沢井が黒崎の肩をポンと叩いたとき、電車が駅に着いた。
「じゃ、また明日な」
そう言い残すと沢井は電車を降りた。
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