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第42話 眠れる彼

 二人で飲みに行った数日後のことだった。  沢井が夕方からの診察のために、外来へ続く廊下を歩いていると、受付のところになにやら人だかりができている。  人だかりは外来に受診に来ている人たちのようで、事務の男性が懸命になって人々を散らそうとしていた。  沢井は形のいい眉をひそめた。  なんだ? 誰かクレームでも言ってきたのだろうか?  病院は命を扱う場所ゆえ、ともすれば、医師と患者、患者の家族との問題や軋轢が起きる。  ……だが、よく見てみると、受付にたかっている人々はみな手にスマートホンを持ち、病院だというのに、それをかざして写真を撮っている。フラッシュが幾度も光る。  沢井はわけがわからず、事務の男性に声をかけた。 「おい、どうしたんだ?」 「あ、沢井先生」  男性事務員は困りきった顔を見せた。 「いったいなんの騒ぎだ? これは」  沢井が人だかりをかき分けるようにして、進んでいくと、人々の視線に先には黒崎がいた。 「えっ……!?」  沢井は絶句してしまう。  黒崎は受付の椅子に座り、横の壁に頭をもたせかけ、眠っていた。 「なんで、こいつが受付に座っているんだ?」  沢井が聞くともなしに呟くと、受付の女性が困惑したように答えた。

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