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第44話 彼の人気

 沢井が思案に暮れているあいだにも、受付嬢は話を続けている。 「その席に座って、五分も経たないうちに、黒崎先生、眠ってしまわれて。何度か声をおかけしたんですけど、まったく起きてくださらなくて。……そしたら遠巻きに見ていた女の子たちが近づいてきて。最初は二、三人だったし、寝顔を見て小声でキャーキャー言ってただけだったんですけど、一人がスマートホンで写真を撮ったと思ったら、あとはもう次から次へと……」 「……で、結果この人だかりになったってわけか」 「はい」  恐るべき群集心理というやつである。 「やれやれ……」  沢井はクラクラと立ちくらみがする思いだった。  黒崎が若い女性の患者に人気があるのは知っていたが、アイドルの追っかけじゃあるまいし、まさかこんな騒ぎになるなんて。 「……それで、肝心の高橋教授は?」 「それがまだいらっしゃらなくて」 「黒崎はどれくらい待っているんだ?」  受付嬢は正面にかかっている時計に視線を向けた。 「二十分くらいでしょうか……」 「しかたないな。一度教授に電話入れてみるか」  沢井が溜息とともに、白衣の胸ポケットからPHSを取り出そうとしたとき、視界の隅に見覚えのあるずんぐりとした背中が映った。

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