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第45話 教授の思惑

「高橋教授!」  ずんぐり背中は、沢井の声にビクッと飛び上がらんばかりに驚き、ゆっくりと振り返った。 「やあ、沢井くん」  このずんぐりと貫禄がある体つきの、しかし、知性ある顔立ちの紳士こそ、高橋教授である。 「いったいなにをなさっているんですか? 教授。黒崎に渡したいものがあると聞きましたが」 「ああ……、うん。まあ、ね。これ、なんだがね……」  高橋教授は妙に歯切れ悪く言い、脇に抱えていたA4サイズのファイルを沢井に見せた。 「ちょっと失礼」  沢井はファイルをパラパラとめくり、内容にざっと目を通す。 「……教授、こんなもの、教授自らここに赴いて、黒崎を名指しで渡さなければならないものでは、まったくないじゃないですか!」  かなり上の地位にいる教授にこんなふうに声を荒らげるなんて、普段はありえないが、いかんせん沢井は寝不足と疲労のせいで気が立っていた。 「黒崎は忙しいんですよ。昨夜だって急患続きで。教授だってそれくらいはご存じのはずでしょう?」 「分かってる、分かってるから。今まで遠慮してたんじゃないか。でも午後には一段落ついたみたいだったし」  いい年をした紳士が口をとがらせて拗ねる。  沢井は呆れたが、立場上、これ以上強くは言えない。それに人だかりの目も気になった。 「それにしてもどうして、松田部長を飛ばしていきなり黒崎を呼んだんですか?」

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