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第53話 駅で
松田部長に追い立てられるように病院をあとにした黒崎は、駅までの道を小走りで辿りながら、泣きそうになっていた。
どうしてこういうことになるんだよ?
どんな顔で沢井先生と接すればいい?
源氏ケ丘大学付属病院の最寄駅であるK線は、松田部長の言うとおり、夜になると、極端に電車の本数が少なくなる。
十分ほど前に病院を出たという沢井と、駅で会える可能性は限りなく高い。一本道なのですれ違いになることもないだろう。
このまま少し時間をつぶして、沢井が電車に乗ってしまうのを待とうかという、後ろ向きな考えさえ浮かんできてしまう。
でも、スマートホンがなければ沢井が困るのは確かだし、人のそれを預かったままというのも後ろめたい。
それになにより、心の深いところでは、黒崎は沢井と会いたかったのだ。
だから結局、小走りのまま駅に着いてしまった。
改札を通り、ホームへ上がると、探すまでもなく沢井は見つかった。
私服のインディゴブルーのシャツとジーンズ姿で立つ沢井は、まだスマートホンを忘れたことには気づいていないのだろう、のんびりとした表情だ。
自分の鼓動がとても速いのは、走ってきたせいか、沢井先生の姿を見たせいか、どちらだろう……? そんなことを思いながら、黒崎は沢井のもとへ駆け寄り、声をかけた。
「沢井先生」
「黒崎……?」
沢井は黒崎の姿を認めると、心底驚いた顔をした。
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