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第57話 恋愛感情というもの
沢井の自宅マンションは静かな住宅街の一角にあった。
築の浅い清潔感のある建物だが、オートロックではなく、管理人も常駐ではない。
七階建てで、彼の部屋は六階らしい。
「近頃はなにかと物騒だから、オートロックとかセキュリティーのしっかりしたところが人気らしいけど、オレは男だし、部屋の広さとかのほうが大切でさ」
七階でとまったままになっていたエレベーターを待ちながら、沢井はそんなことを話した。
「そうですね……」
黒崎は話の内容が半分も頭にはいってこない。
好きな人の住んでいる場所へ来ることが、こんなに心乱れることだなんて、恋愛経験が皆無の黒崎には想像もできなかったのだ。
「黒崎、おまえはセキュリティーがしっかりしたところに住んでるか?」
「は? ……あ、いえ。特には」
黒崎の自宅はワンルームの二階で、築も古いし、勿論オートロックなどではない。
「ダメだろ、それじゃ」
「どうしてですか?」
「おまえほどの容姿をしていたら、ストーカーに狙われるぞ」
「そんな、まさか……」
黒崎の返事に、沢井は溜息をついた。
「おまえはいまいち自分の容姿に自覚がないんだな。……心配だよ、オレは」
沢井はぽつんと呟いた。
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