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第60話 恋焦がれて……

 再びリビングに残された黒崎は深呼吸をした。  ひどく息苦しく、胸の鼓動も速くなるばかりだ。  頭の中で、あのときのことが勝手に再生される。沢井に口づけられたあのとき……。  彼の熱い吐息、抱きしめてくる力強い腕、好きだと告げられた瞬間。  そして今、再び好きだと告げられ、黒崎は今一度思い知った。  自分がどうしよもなく沢井に恋焦がれていることを。  沢井がキッチンから戻ってきて、向かいのソファに座る。  黒崎の前にジョッキに入ったビールを置き、自分用のウイスキーの水割りを作り始めた。  グラスに氷を入れ、ウイスキーとミネラルウオーターを加え、マドラーでかきまわす。  黒崎は沢井の手を見ていた。  指が長く、男っぽい綺麗な手だと思った。  手だけではない。沢井は本当にかっこよくて、一つ一つの動作が絵になっている。  ずっと見ていると、どこか現実感がないような、ドラマのワンシーンを見ているような気持ちになってくる。……あるいはそんなふうに思うのは、黒崎が自分の恋心と対峙することから逃げるために、意識の焦点を逸らしたかったからかもしれないが。 「おい、黒崎? なにぼんやりとしてるんだ?」 「あ、……いえ」 「それじゃ、とにかく乾杯」  沢井が水割りのグラスをビールのグラスに当てた。 「乾杯……」  黒崎も小さく応えてから、ビールを一口飲んだ。  良く冷えたビールが喉を通り、すぐにおなかの中がホワ、と暖かくなる。  沢井がウイスキーを二口ほど飲んでから、ふと思いついたように言った。 「なんかつまみ持って来なきゃな。空きっ腹にアルコールはよくないから。……ちょっと待ってて」  立ち上がると、キッチンへ歩いて行った。

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