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第61話 酔いの力を借りて

 みたびリビングで一人になった黒崎は、目の前にある沢井のウイスキーの水割りを見るともなしに見ていた。  そうしているうちに、やがて一つの思いつきに至る。  ……いっそのこと少し酔ってしまったほうが、楽になるかもしれない。  思えば初めて二人きりで飲んだあの夜も、酔いが手伝ってくれて、パンダの思い出話など、いつになく素直に話をすることができた。  黒崎は持っていたビールを置くと、ウイスキーの水割りに手を伸ばした。  度数が高いほうが早く酔えると単純に思ったからである。  そして黒崎はその琥珀色の液体を一口飲んだ。  ……あ、もしかしてこれって、沢井先生と間接キス……。  そう気づいた次の瞬間、おなかの中が燃えるように熱くなった。 「冷蔵庫に上等のハムが残ってたよ。もらい物でさ……」  沢井はトレイの上に、チーズとハムの皿や、ナッツの袋などいろいろなつまみを乗せて、リビングへ通じる扉を開けた。  その瞬間、沢井の目に飛び込んできたのは、テーブルに突っ伏してしまっている黒崎の姿だった。  沢井は慌てて彼に駆け寄った。 「おいっ、黒崎っ!? どうしたんだ?」  トレイをテーブルに置くと、そっと黒崎の体を起こした。  気を失っていたわけではないようで、黒崎はすぐに薄っすらと目を開けた。 「……あ、すいません。大丈夫です。それを一口飲んだら、急にグラグラして……」  そう言って、ウイスキーの水割りのグラスを指差す。 「は?」  見てみるが、水割りのグラスはそれほど減っているようには見えない。  ……ああ、でもこいつは酒にすごく弱かったんだっけ。  黒崎は、かすかにウイスキーを香らせ、体はくにゃりと脱力している。  確かに酩酊しているようだ。ウイスキーの水割りを一口飲んだだけで、ここまで酔えるとは、ある意味うらやましい気もするが。  とにかく、具合が悪くなったわけではないみたいなので、沢井は安堵した。 「大丈夫か? 水、飲むか?」  苦笑しながら、黒崎の顔を覗き込む。 「いえ。大丈夫、です……」  酩酊は、いつもの彼の美しさに妖艶さをあたえていた。

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