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第65話 愛されること

 黒崎にとっては、なにもかもが初めてのことだった。  舌を入れられ口内を貪られる淫らなキスも、乳首を唇と指でいじられる快感も。  怖くないと言えば嘘になるが、酔いがずいぶん怯えの気持ちを鈍麻させてくれていたし、なによりも、沢井先生をもっと近くに感じたい、触れ合いたい、という思いが、怖さよりも大きくて……。  ただ、声を聞かれるのだけは恥ずかしくてたまらなかった。自分のものとは思えない切ない声が唇から勝手に零れ落ち、黒崎を狼狽えさせた。  必死になって声を殺していたけれども、それも沢井によって解き放たれてしまった。  黒崎よりも大人の男の沢井に、自身を愛されて……、もうなにがなんだか分からなくなった。  ソファからふわりと体が浮くのをぼんやりと感じ、気づいたときにはベッドへ横たえられていて……。  素肌が空気にさらされる感覚がして、すぐに沢井の素肌が重なってきた。  彼の体温と重みが、黒崎に大きな安心感を与えてくれる。 「好きだよ……」  沢井が優しく囁き、ふわりと口づけをくれる。  口づけはだんだん激しくなり、やがて舌が入り込み、口内を彼に蹂躙されていく。  沢井の右手が、黒崎の肌の感触を楽しむかのように、ゆっくりと下へと降りていき、再び敏感なソコを彼の手が優しく握った。 「あっ……」  零れる甘い吐息。  沢井はゆっくりと、握りこんだ黒崎のソレを擦りあげ始めた。 「あ……、あっ……、沢井せんせ、い……」  一度解き放ってしまった喘ぎ声は、もう抑えることができず、切なく掠れる自分の声が部屋に響いているのが分かる。 「黒崎……イっていいよ」  沢井が耳元で囁き、右手の動きが早くなる。  ……黒崎にも自慰の経験はあるが、それは極端に少なかった。  恋愛経験もなく、でも、それを不自由と感じることもないほど淡白で、学生時代は学業とアルバイトの掛け持ち、医師になってからは仕事とスキルを上げるための勉強の毎日で、いつも忙しかったので、自慰をしている暇も余力もなかった。  刺激に慣れていない黒崎のソレは、沢井という大人の男の手で愛されて、得も言われぬ気持ちよさとともに、二度目の高みへと導かれた。

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