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第69話 翌日、嵐の前
黒崎が目を覚ましたとき、目に入ったのは見慣れぬ天井と電灯だった。
……?
霞がかかったような頭のまま、自分の状況を把握しようと身じろぎした途端、痛みが体を貫いた。
その痛みが昨夜の記憶を一気によみがえらせ、顔が赤くなるのが自分でも分かる。
体は痛みに悲鳴をあげていたが、心は幸せで満たされていた。
ゆっくりと顔だけを巡らせて部屋を見渡すと、遮光カーテンの隙間から日の光が差し込んでいる。
沢井がいないのは、仕事に出かけたからだろう。彼が声をかけていったことをおぼろげながらも思い出した。
『行ってくるから、黒崎……』
耳元で囁かれた彼の声を再生すると、心が甘く疼く。
いろいろ思いを巡らせているうち、不意に自分の仕事のことを思い出し、
オレ、仕事……! ……は、今日は昼からだっけ。
一瞬、慌てたが、すぐにホッと力を抜いた。
……でも、今何時なんだろう……?
痛む体をかばいながら上半身を起こすと、サイドテーブルに沢井からのメモが置かれていた。
〈おはよう。
体は大丈夫か? 今日は病院には休みの届けを出しておくから、一日ゆっくり休んでろ。
バスルームとトイレはキッチンの手前の廊下の向かって右側。
冷蔵庫にサンドイッチを作っておくから、ちゃんと食べるんだぞ。
今夜、それほど遅くならないと思うから、待っていて欲しい。 沢井 〉
彼の優しさがメモから伝わってきて、黒崎の口元が自然とほころぶ。
メモの傍にある時計を見ると、十一時を少しまわったところだった。
黒崎は痛む体を騙し騙し、ベッドから降りた。
床に置いてあった自分のシャツを羽織ると、シャワー浴びるために歩きだそうとして、足元がよろける。
とっさに傍にある小さな机に手をつき、なんとか体勢を立て直した。
黒崎は何気なく、その机を見た。
机の上にはノートパソコンと数冊の医学書が乗っている。
……あ、これ。ずっと欲しいと思っている医学書だ……。
黒崎は一冊の医学書を手に取り、パラパラとめくる。
そして、黒崎は医学書に挟まれていた、その写真を見てしまった。
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